第23話 大都市です。
交易都市ローインは、港町ヴェンチ・プレイスよりも遥かにデカい街だった。交易都市というくらいだから、様々な地方から人や物が集まってくるようで、道を一本過ぎれば、違う国の人がその国の特産品を売っている、そんな感じだった。とにかく広い。
用心棒としてここまで連れて来てもらった商人に別れを告げて、俺は今晩の宿を探す。
ここの冒険者ギルドに手配して貰えば簡単だったんだけど、ちょっと今回は事情が事情――獣人族を連れて歩いているだなんてバレたら大変なことになるのは目に見えている――だけにそれはパス。自分で探すことにした。
「お風呂付き、お風呂付きでお願いします!」
耳元でリスに変身したクーが呟く。
国を出てから数週間、お風呂はおろか、水浴びすらもまともにできていないんだって。リスの姿で水たまりにでも入ればいいじゃないかと言ってみたが、そんなの気持ち良くないです! と一蹴された。
っていうか、この街に風呂付きの宿なんてあるの? よくて大浴場が関の山なんじゃないの? イメージとしては、転生前のビジネスホテルのような感じなんだろうけど……これまで、この世界でそんなの見たことないんだよなぁ。
そんなことを思いながら、俺は肩にリスを乗せて街を歩く。すると、周りを往く人々が俺に注目する。俺を見ながらヒソヒソと話をしているのが聞こえてくる。
「うわぁ、あの人、超イケメンじゃん! しかもマッチョ!」
「声かけてみる?」
「えー、イケメンすぎてだめ。完璧だもん!」
「見てみて、肩にリスを乗せているわ、カワイイ!」
「ほんとだ! きゃ、リスがこっち向いて手を振ってくれたわよ!」
ふふふ、聞こえているぞ。嬉しいんだが、話しかけられたとしてもどうせ名前で笑われてしまうし、上手に話ができないのが難点だ。
っていうか、クー。調子に乗って手を振るんじゃない!
「やはりイケメンなんですね。はじめに会ったときからそう思っていました」
「ありがとう、だがあまり喋るな。俺が変な奴に思われるし、クーも怪しまれるぞ」
「むむっ、それはいけません」
俺はきょろきょろ宿を探す感じを出しながら、クーと目を合わさないようにして話す。しばらく宿を探して歩くが、今歩いているところが街の中心街――主に商店が集まっている場所――だからか、なかなか見つからない。
そんなとき、
「仕方ありませんね、今回は手助けしてあげましょう」
空から女神様の声が聞こえたような聞こえなかったような。
はっと俺が空を見上げるが、当然そこに女神様の姿はない。道ゆく人々も特に声が聞こえたようなそぶりは見せていないので、俺だけに聞こえたのかもしれない。
「どうかしましたか? はっ、喋っちゃいけないんでした!」
どうやらクーにも聞こえていないらしい。
もしさっきの声が本当に女神様のものだとしたら――俺の幻聴じゃなかったら、いったいどんな手助けをしてくれるというのだろう。
少し期待しながら、中心部から離れると――あった。
「1泊銀貨1枚、部屋ごとにお風呂付き 残り1部屋」と看板が書かれた宿が。うそ、こんなに都合よく見つかるもんだろうか? って、ああ、なるほど。
これがさっきの女神様が言った「手助けしてあげましょう」だということか。あまりにも都合が良すぎてびっくりしてしまったが、ありがたく使わせていただくとしよう。
俺はクーを肩に乗せたまま、宿の扉を開けた。
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