第22話 王女様でした。

「私の名前はキィンニィ・クー。獣人族を束ねるキィンニィ家の王女です。今、私たち獣人族は絶滅の危機にあります。どうか助けていただけませんか?」


「ぜ、絶滅?」


「はい。先ほどの商人の話にもあったように、私たちの血で魔力を得ることができると……人間たちは我が同胞たちを次々とさらっては……殺していきました。そして、今度は魔王までもが私たちを狙い始めたのです」


 ――魔王! 復活の時を待っていると聞いてはいたが、魔力を得るために獣人族の血を集めようとしているのか。それはいかん。なんとしてでも阻止しないといけない。


「父である国王は、人々を守るために魔力を使い続け倒れてしまいました。私は助けを求めて国を脱出しました。ですが、獣人族とバレては自分の身も危ない。誰にも助けを求めることなんてできない状況だったんです……」


 なるほど、事情はだいたいわかった。でも、簡単に「はい、助けてあげましょう」とはいかないよな。

 まだ確認しないといけないことがいくつかある。


「えっとさ、お、王女様?」

「クーで構いません」


 突然獣人族の王女様だと聞いて、なんて呼べばいいのかわかんなくなったが……いいのかな、ただのマッチョが王女様の名前を呼び捨てにしても……?


「じゃ、じゃあクー。俺からもいくつか質問させてくれ」

「……はい」


 なんか本当にさっきまでの威勢のいい感じじゃなくて、しおらしい。なんていうか、王女様の品格というかなんというか、そんなものが溢れているような。


「まず、どうして山賊の姿に変身して俺たちを襲った?」

「……手持ちのお金も食料も尽きてしまい、生きていくにはそうするしか方法がなくて……」


「あまり感心しないが……仕方なかったのか」

「すみません」


 俺は自分の荷物から、パンを取り出すとクーに差し出した。


「……あ、ありがとうございます!」

 港町ヴェンチ・プレイスで買っておいたものだったが、王女様のお口に合うかどうか……なんて思っているうちに、クーはそれに夢中でむさぼりついた。こりゃ、相当お腹が空いていたに違いない。


「ところで、パンに合うお紅茶か何かはございませんか?」


 さすが王女様。俺は思わずズッコケた。そんなものはなかったので、ガラス瓶に入っている水を差し出す。クーは一瞬ためらったが、

「大丈夫、さっき清流で汲んだやつ。俺も口をつけていないよ」

 と俺が言うと、彼女は受け取って一気に流し込んだ。


 そして、飲み終わると、

「あなたの持っている紅茶は味が薄いんですね。ただの水に感じましたが、生き返りました!」

 だって。


 俺の言った話、聞いてた? ただの汲んできた水だってば。

 

 クーが簡単ではあったけど、食事を取り終えたので仕切り直し。俺は再び彼女に尋ねる。


「どうして俺に助けを求めた? 俺だって、獣人族の血を狙っているのかもしれないのに?」

「……」


 返事がない。


 見ると、緊張が解けたのか彼女は目を閉じて気持ちよさそうに眠っていた。

 だよな、助けを求めて国から脱出したものの、誰に頼ることもできず、今まで一人で過ごしてきたんだもんな。しばらくこうさせておいてやるか。


 俺はクーをそっと床に寝かせると、毛布がわりに自分のタンクトップをかけてやった。ち、違うぞ! ちゃんと洗ってあるやつ! 替えのタンクトップ!

 まさか今着ているやつを脱いで、かけてやったとかじゃないから!


 そして、めっちゃシリアスな話をしているときに限り、俺は女の子相手でもまともに話ができることに気づいた。


 んで、詳しい話も聞けぬまま、クーが眠っている間に交易都市ローインに到着してしまった。

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