第21話 内緒の話です。

 今俺が乗せてもらっている馬車の荷台は、基本的に商品がぎゅうぎゅうに詰められている。

 だから運転席――つまり商人のいる位置――から、俺の姿は見えない。乗っている人間が一人増えていようが、そんなの気づくはずもない。

 そして、ガタゴトと車輪の音もうるさいから、会話も聞こえることはない。仮に聞こえたとしても、何か鼻歌でも歌っているんだろうと思われたはずだ。

 


 遡ること、数時間前。

 


 することもないので、目を閉じてゆっくりしていると。


「ねぇ、ねぇっては!」


 不意に誰かの声がして、俺ははっと周囲を見る。

 当然だが、荷台には大量の荷物の外には俺しかいない。


 幻聴かな?


 再び目を閉じると、もう一度。


「無視しないでよ!」


 耳元で声が聞こえる。

 見ると、肩の上にリスのような小動物(もうこれからはリスと呼ぶことにする)がちょこんと乗っかっていた。これは獣人族の少女が、茂みの中で変身したやつ――つまりあのときの彼女なんじゃないか?


 こんなときに驚くそぶりを見せたらイケメンじゃない。俺は平静を装って、話しかける。


「君は……?」


「さっき会ったでしょ。忘れたとは言わせないわ……あんなことしておいて」



 ――あんなこと。



 ふにふにっとした感触が手に蘇る……って違う! あれは倒れようとした少女を――少女だなんて思っていなかったんだ。ただ、支えようとしただけなの!

 不可抗力ってやつだ。


 って思いっきり言ってやりたかったけど、多分こう言うときって何を言っても、言い訳に聞こえてしまうんだろう。それにイケメンは言い訳はしない。


 俺は黙っておくことにした。



「まったく、こんなにカワイイ私に対してパンチするなんて、信じられない」


 ――そっちかい!


「だってあの時は山賊が魔物に変身したとばかり思っていたからさ……女の子だとわかっていたら、攻撃なんてしなかったよ」


 ……あれ、緊張せずに喋れている。女の子とわかっているけど……相手がリスの姿をしているからだろうか? まあいいや。


「ふふん! 私の能力『変身』がそれだけ素晴らしいってことよね! もっと褒めてくれてもいいんだから!」


 俺の握り拳よりも小さいくらいのリス――中身は獣人族の少女――が、誇らしげにエヘン! と鼻を高くする。


 なんだかこの子、感情の変化が激しいな。ま、見ていて面白いからいいか。


「で、その変身が得意な獣人族のお嬢さんが、俺に何の用?」


 そう言うと、彼女は変身を解いて、ネコミミが生えた女の子の姿に戻った。そして、俺の目の前で、膝をついて深々と頭を下げた。


「お願い、獣人族を助けてください」


 先ほどまでの言葉使いとは打って変わって、この丁寧さ。ころころと変わるこの態度に驚きつつも、なんとなく放っておけなくて、俺は彼女の話を聞いてみることにした。

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