第20話 初めて聞く種族です。
「モゴモゴ……モゴゴゴ!」
「しーっ! 静かにして!」
少女は俺の口を塞いだまま、茂みの中に俺を押し倒す。え、何この展開。ご褒美か何かですかって……すみません調子に乗りすぎました。
正直言って、彼女の手を外すことも、この場から逃げることも、または彼女を気絶させることも……全て可能だった。
だけど、表情を見る限り、何か切羽詰まった事情がありそうだった。万が一、何か別の能力を使われたとしても、そこは世界最強の戦士ニーナ・リタだ。バックには女神様もついているから、なんとかなるはず。ちょっと様子を伺うことにした。
「あなた……見たわね、この耳を」
「モゴモゴ」
「モゴモゴじゃわかんないでしょうが!」
「フゴフゴ」
ちょっとコイツ、自分で口を塞いでおきながら……だんだん息も苦しくなってきて――いい匂いはするけど――俺は少し、イラッときてしまった。
ガサッ。
茂みの向こうから音が聞こえた。おそらく商人が俺のことを心配して来てくれたんだろう。すると、その音に反応して少女は小さなリスのような小動物に姿を変えて、俺の背後に隠れた。
「大丈夫かい、ニイちゃん?」
茂みをかき分けて、商人がやってきた。しかも手には大きな剣を携えて。
「ああ、問題ない」
俺はすっと立ち上がり、パッパッとタンクトップと短パンについた土や葉を落とす。
「あの子は……逃げたか。もったいないことをした」
「?」
少女の姿が見えないことを確認すると、商人が悔しそうに剣で地面を叩く。何のことだかわからずに、俺は尋ねた。
「あの女の子がどうかしたのか?」
「ニイちゃんも見ただろう? あの耳を。ありゃあ希少種の獣人族だ。国王をはじめ貴族たちが喉から手がでるほど欲しがっている。捕まえておけば高くで売り飛ばせたのに」
――獣人族。そんな種族がこの世界にはいたのか。初耳だった。
ま、これまであった人たち全員ネコミミなんてついていなかったしな。
「どうしてまた、お偉いさんたちが欲しがるんだ?」
「さあ。でも噂では、獣人族の生き血を飲むと、絶大な魔力を得ることができると言われているとか。実際に試したのを見たことはないけどね」
商人がそんな話をしている間、俺の背中で小動物に変身した少女がブルブルと震えているのがわかった。
ああ、この子もきっと獣人族とバレたから殺されると思ったんだろうな。だから俺の口を押さえて――。
「ま、とにかく山賊はいなかったってことだ。先を急がないと、ローインに到着するのが遅れてしまう! さ、最後までしっかり用心棒を務めてくれよ!」
商人はそう言うと、元来た道を戻っていく。
俺も後に続いた。
◇◆◇
ゴトゴトゴト。
俺を乗せた馬車が、少しペースを上げて進んでいる。
「……」
このまま何事もなく、交易都市ローインへと到着し、準備を整えてからヴァルク山脈に住む大魔法使いシュワルツさんに会いに行くはずだったのに。
馬車の中。
どうして俺の横で先ほどのネコミミ娘が気持ちよさそうに眠っているのでしょうか。
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