第19話 ネコミミは内緒です。
「えっ……お、女の子だった……の?」
少女の平手打ちはダメージらしいダメージはなかったものの、まさかの展開に俺は動揺を隠せなかった。
さっきまで普通に男の子だと思っていて喋っていたのに、女の子とわかった瞬間、急に喋れなくなるのはどうしてなんだ――って、当然「縛り」のせいだよな。もう、この謎の仕様、なんとかして欲しいんだけど女神様!
はっ! しかし、しかしだ。
もしかして、たとえ女の子だとしても、男の子だと思っていれば、なんの緊張もなく話ができるんじゃないか? 今まさにそうだったじゃないか。よし、これからは世の中の全ての女性を男性だと思って……ははは、そんなの絶対無理だな。
俺の手のひらには、先ほどのふにふにとした感触がいまだに残っていた。柔らかかった……って、こんな小さな子に対して俺はなんてことを思っているんだ!
だめだめ、犯罪!
俺は両手で自分の頬を叩く。ちょっとだけ、さっき少女から平手打ちをもらった場所が痛む。
ごほんと一つ咳払い。
気合を入れ直して、改めて俺は少女に向き合う。
目の前にいる少女は、はぁはぁと息を荒げて顔を赤らめながら、ちょっと涙目になっていた。
「うわぁあん! もうお嫁に行けないぃ! このケダモノォ!」
突然そんなことを言い出して、大声で泣き出した。それを聞いてか、馬車の中にいた商人が外へ飛び出してくる。
「どうされましたかの? 山賊は……?」
俺はため息を一つ吐いてから、商人にそこで泣いている少女について説明した。
「――そうでしたか、この子が能力『変身』を使って山賊に化けていたと」
「そういうことだ」
説明が面倒くさかったので、
「しかしまあ、どうしてこんなに小さい子が山賊の真似事なんかを……」
商人の言葉に、少女はぷい、とそっぽをむいたまま、何も話そうとはしない。
「おい、な、なんとか言ったらどうなんだ」
一応、山賊や魔物に変身して襲ってきた件もあったので、念のために俺が少女の両手を縛ろうと手を伸ばす。
すると、
「うるさい、小さい子なんかじゃない! 私は18歳、もう立派な大人なんだ!」
と言って、少女が俺の手を払い除ける。その拍子に、少女の被っていたフードがはらりと脱げた。
「!」
慌てて少女がフードをかぶり直すが、俺は確かに見てしまった。彼女の頭にネコミミが生えていたのだ。
「き、君……そのみ――モゴモゴモゴ!」
俺がそう言おうとするや否や、少女は俺の口を塞いで近くの茂みにまで連れて行った。
口を塞いだ少女の手が、なんかいい匂いがした。
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