第18話 お仕置きです。

「ふん!」

 俺は拳で軽く地面をパンチする。


 ドゴォッ! と物凄い音がして、そこに大きな穴が開いた。直径……何メートルかはわかんないけど、確実にさっき一つ目の巨人サイクロプス――といっても山賊が化けただけだろう――が棍棒を地面に叩きつけたときとは比べ物にならないほどのものができた。


 一つ目の巨人サイクロプス――おそらく偽物――の攻撃は地面に棍棒の跡が残っただけ。


 俺のはもっと深く、もっと範囲も広い。しかも素手ね。素手。


 ちらりと一つ目の巨人サイクロプスを見ると、明らかにびっくりした様子で俺のことを見つめている。これくらいじゃまだまだ甘いかな。もっとびびらせるぞ。


「シュッ!」


 そう言いながら、俺がその場で一つ目の巨人サイクロプスの顔に向かってパンチをする。当然届く距離ではない。しかしその風圧で、やつの頬に一本の傷ができる。そこからじわぁっと血が滲み出て、顔色が明らかに変わる。勝てないと悟ったんだろうな。でもまだ終わらないぞ。


「シュッ、シュッ!」


 今度は一つ目の巨人サイクロプスの腹を目掛けてパンチした。もちろんその場で。パンチは直接届くわけがない。だけど、一つ目の巨人サイクロプスは軽々と吹き飛ばされ、後方にある大木に激しく体を打ち付けた。



「ぐはぁっ!」



 そう言って、一つ目の巨人サイクロプスははぁはぁと肩で息をする。木にもたれかかるようにして、なんとか倒れないようにしているが、もう立ち上がる元気もなさそうだった。


 はい、これでおしまい。山賊といえどもただの人間だからね。巨大なイカの魔物テンタクルスですら一撃で倒すパンチですよ。これでもだいぶ手加減してあげたほうなんだから。


 俺はゆっくりと、しかしイカの墨吐き事件があったから油断をせずに、一つ目の巨人サイクロプスに近く。


 一つ目の巨人サイクロプスが俺から攻撃をくらって、変身が解けて、元の山賊の姿に戻る……そう思っていたんだけど……。


「もうネタは割れているんだ。観念しろ、山賊さんよぉ!」


 ちょっとカッコつけてそんなセリフを言ってみたけど、俺の目の前で気にもたれかかっているのは山賊じゃなかった。


 フードを被った、小さな男の子だった。


「え、あれ? 山賊じゃない?」



 どういうこと?



「ごほ、ごほっ! こんな強い用心棒がいるなんて……!」



 お腹を押さえながら、男の子が言う。


 えっと、これが正体……ってことなのか? つまり、この男の子が山賊に変身していて、そこからさらに一つ目の巨人に変身したってことでいいのかな? 能力スキル「変身」がどのくらいすごいスキルなのかはわからないけど、二段階で変身できるって、結構すごい気がするんだけど。


「どんな理由があったのかは知らんが、商人の馬車を襲うのは感心しないな。しかもこんな小さな子供一人で――」


「子供じゃないから! ごほっ、いたた……」


 男の子はまだお腹をさすって痛がっている。むこうが襲ってきたのは事実だから、こちらとしては正当防衛が成り立つはずだが、いかんせん、こんな小さな子供相手とわかっていたら……ここまで懲らしめることはしなかったな、と俺はちょっぴり反省した。


「すまん、ほら、立つんだ。馬車の中で話はきいてやるよ。事情が事情なら、何か助けてやれることがあるかもしれない」


 俺が手を差し出すと、男の子は「一人で立てるし!」と言って、膝をがくがくさせながら立ち上がる。うーん、さっきの一撃が相当ダメージとして残っているな……しまったな。そんなことを思っていると、男の子がバランスを崩し、俺の方へ倒れてきた。


「おいっ、危なっ――」


 咄嗟とっさに手を出して、俺は男の子を両手で支えた。



 ふにっ。



 ん?


 なんか両手に柔らかい何かを感じる。



 ふにふにっ。



 これは……?


 俺の両方の掌は、男の子のちょうど胸の辺りを支えていた。



 ふにふにっ。



 ってことは……もしかして……お、おっ……



「ど、ど、どこ触って……この変態ぃぃ!」



 スパァン!



 男の子だと思ってたら、女の子でした。彼女の平手打ちは、俺の頬にクリティカルヒットした。

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