第17話 山賊の登場です。

 馬車から降りると、すぐに商人が俺の近くにやってきた。

「たのむ! 山賊だ、助けてくれ!」


 俺はニコッと笑うと、商人の肩に手を置いて言った。

「大丈夫。あなたは馬車の中に隠れていてください。すぐに終わらせます」


「た、頼んだよ! なにせ相手はクマみたいに大きかったんだから!」


 商人は震えながら馬車の中へ入った。まあ、普通の人ならそうだよね、怖いはずだよ。異世界転生する前の俺でも怖いと思うだろう。


 でも、今の俺はマッチョ。

 マッチョでイケメンで、世界を救う男、ニーナ・リタ。


 そんな俺が、山賊ごとき相手になるはずがない。たとえクマみたいに大きかろうが、ついこの間、巨大なイカの魔物を倒した男だぞ。余裕余裕。



 さて、その山賊とやらは何人いるんだろうか。さすがに何十人もいたら骨が折れるかも知れないけど……と、向こうを見ると……行く手を遮るようにして立っているのはたった一人。

 商人の言う通り、クマのように大きい――といってもマッチョの俺と同じくらいの大きさの山賊だった。筋肉量は俺の方が多いかな、といった感じ。



 山賊は俺の姿を見て一瞬ビクッとしたようだったが、手にしていた剣を俺の方へ向けてきた。


「おい! 痛い目に遭いたくなかったら、荷物を全部置いていけ!」

「断る。そっちこそ痛い目に遭いたくなかったら、道を開けるんだ」


 俺が一歩前に進むと、山賊が一歩後ずさる。


 これは、相手が俺にビビっているな。まさか商人が用心棒を雇っているとは思わなかったんだろう。

 そして一目見た瞬間に、俺との実力差を感じ取った。

 

 この時点で勝負はついていた。戦わなくてもわかる。

 

 と思っていたんだけど。


「この姿を見ても、同じことが言えるかな!」


 なんと、山賊が両手で印のようなものを結ぶと、姿形をゆっくりと変化させた。山賊の体が徐々に大きくなり、着ていた服がなくなっていく。手に持っていた長剣が、気がつけば巨大な棍棒に変化していた。


「グアアアアア!」


 山賊は、俺の数倍の大きさの一つ目の巨人サイクロプスの姿になると、大きく口を開けて吠えた。そして、手にしていた巨大な棍棒を地面に叩きつけた。


 ドガァン!


 と一瞬、地面が揺れて、周囲にあった木々が震えた。地面に叩きつけた棍棒の後がくっきりと残った。


「……魔物が人間に変身していたのか?」


 人間に化ける魔物なんて、これまで冒険者ギルドでも聞いたことがなかった。これももしかすると魔王が復活する前兆なのだろうか。もしかして、すでにいろいろなところで魔物が人間の姿に化けていたりして……。


 と、ここまで考えて、俺は何かがおかしいことに気がついた。


 人間を襲うんだったら、最初から魔物の姿をしておけばよかったんじゃないの? わざわざ人間に化ける理由があるか? 

 

 それに、あの山賊、変身する前に指をちょこちょこ動かしていたぞ。あれがおそらく変身するための動作なのだろう。

 

 つまり、これは「人間が能力スキルを使って魔物に化けて脅している」に違いない。俺はそう結論づけた。



 だとしたら、ちょっと懲らしめてやろう。

 俺はニヤリと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る