第3章 交易都市ローインは危険な香り。

第16話 馬車での長旅です。

 ゴトゴトゴト。


 俺を乗せた馬車が、ゆっくりと進んでいる。もちろん道は舗装などされていないから、石が落ちていたり、地面がでこぼこだったりすると、揺れる揺れる。酔ってしまうほどではないけど、なんか車とか電車で移動していた頃が懐かしくもある。


 でも、流れる雲を眺めながら、ゆっくりとした馬車の旅ってのもいいね。


 大魔法使いシュワルツが住んでいるのは、港町ヴェンチ・プレイスよりもはるか北。ヴァルク山地という、雪に覆われた山の中で一人、生活しているらしい。


「はっはっは、師匠の考えることはよくわからんのだ!」


 シュワルツの一番弟子であり、港町ヴェンチ・プレイスの代表的マッチョのルーベ・スージーがそう言っていた。



 人里離れた場所に住むのには、何か理由があるのだろう。誰にもみられたくない実験をしているとか、もしかしたら人が嫌いとか。いや、人が嫌いなら弟子をとったりはしないか。とにかく、行って会ってみないことには何も始まらない。


 ヴァルク山地は、この国で二番目に大きい都市、交易都市ローインから北へ伸びる街道を進めば見えてくるという。


 っていうか、歩いて向かうにはちょっと無理があるなぁと思っていたら、ちょうど交易都市ローインに向かうという商人を紹介してもらい、馬車に乗せてもらうことになったんだ。無料で乗せてもらう代わりに、何か危険が迫ったときの用心棒を務めることになったけど。


 はじめは「鎧も着ていないニイちゃんが用心棒だなんて……」と渋い顔をしていた商人だったけど、ルーベが「俺が自信を持って推薦するから!」と言ってくれたおかげで、「ルーベがそこまでいうなら信じるけど……」と認めてくれたのだった。


 いや、彼は顔が広いし、信頼されている。やはり身体というのは嘘をつかないな。マッチョであるということは「それだけ自分に厳しい修行を課していることの現れ」だから。俺は……女神様にマッチョにしてもらったから、あんまり偉そうに語ることはできないけど。


 馬車に乗っているのは俺一人。隣には商人が港町ヴェンチ・プレイスで仕入れた商品が所狭しと並べられている。木箱に詰められた果物や冷凍魔法で氷漬けにされた鮮魚、武器や防具に至るまで。異世界暮らしもまだ日が浅いので、こう言うのをみているだけでも面白い。



 それに、一人でよかった、とも思う。



 もしここに女性が一人、または複数人で乗ってきてみろ。俺は当然話しかける度胸もないし、話しかけても笑われるし、上手に話もできないし、いいことなんて何一つない。せっかくのイケメンマッチョが宝の持ち腐れというものだ。


 女神様は訓練次第で女性とも上手に話ができるようになるとは言っていたが……。もしかしたら、大魔法使いシュワルツさんが何かいい訓練法を教えてくれるかも知れないな。めっちゃ美人っていってたし。ちょっと楽しみ。



 そんなゆっくりした馬車の旅も数日が過ぎ、あと少しで交易都市ローインに到着するというとき。


 のんびりと馬車の中で過ごしていると、

「山賊だ! 助けてくれ!」

 と商人の声。用心棒を雇うくらいだから、平穏無事に街につくはずないよなと思っていたら、やっぱり。



 イカ退治の次は山賊退治ですか。


 まあ、タダで乗せてもらっているんだから、これくらいは、ね。

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