第14話 突然の呼び出しです。

「お見事ですね、マッチョ・ニーナ・リタ・E」


 あれ、今確かに巨大なイカの怪物テンタクルスに一発ぶちかまして、倒したはずだったのに。


 なぜか目の前には女神様が立っていた。場所は、異世界転生をする前に女神様と話をしたところ。あ、巨大なイカの怪物テンタクルスを倒した直後にここに呼び出されたってことね。


 俺は事情を理解した。が、解せないことが一つあった。今の戦いで呼び出しをくらうようなこと、した?


「えっと、女神様……俺、今の戦いで何かやらかしちまいましたか?」

「……いいえ」


 女神様、別に怒っているわけではなさそう。


 確か前回呼び出しをくらったのは、困っている冒険者を助けずに素通りしたときだった。「魔王を倒し、世界を救う使命を持ったあなたが目の前の困っている人を救わずにどうしますか!」って怒られたっけ。


 でも今回は、巨大なイカの怪物テンタクルスを倒したこのタイミングで呼び出すんだぜ。何か大事な話でもあるんだろうか。


「魔王はやはり、着々と準備を進めているようです。一つ目の巨人の襲撃や今回の巨大なイカの怪物テンタクルスもその兆候の一つです」


 やはり。魔王が復活するということで、これまで見なかったような魔物たちも誕生しているのかもしれないな。


「それで……何か?」


「今回のような海の上での戦い、次は空の上での戦いも起こらないとも限りません。一人で戦い抜くには限界もあると感じませんか?」


「確かに」


「残念ながら職業や能力の変更はできませんが、せめて仲間を増やしてはいかがでしょう。ルーベのように冷撃フリーズを使える仲間がいると、魔王に対しても有利に戦うことができるかと思われます」



 能力スキル「イケメン」で人気を得て、ギルドで優秀な仲間を見つけてパーティを組む。そう思っていた時期が俺にもありました。


 でも支払った対価のせいで、まず名前で笑われ、強そうな男性に話しかけると「武器防具を装備しない奴と一緒に冒険だなんて、危なっかしい」と断られ、女性陣とはうまく話ができず、パーティを組むなんて夢のまた夢だという現実に直面したんだよ。


 女神様の言う通り、ルーベの冷撃フリーズは強力だ。一緒に旅をすれば、彼が活躍する場面なんて数え切れないほどあるだろう。



 あんなマッチョなのに繊細で強力な魔法を使う――ん?



「ちょ、ちょっと待ってマッチョ女神様!」


「どうしましたか?」

 女神様が首を傾げる。


「あの、以前『何かの力を得るには、それなりの対価が必要』だっておっしゃってましたよね? 『魔法使いは力が弱い』とも」


「ええ、その通りですよ」

「おかしいじゃないですか!」


 ちょっと大きな声を出してしまった。女神様が驚いて俺を見る。


「だって、ルーベ! 彼は冷撃フリーズという超強力な魔法を使いながらもマッチョですよ! 魔法使いとマッチョ、相反するじゃないですか!」


「何を言うかと思ったら」



 女神様は俺の真横にルーベの画像を浮かび上がらせた。画像でも、やはりマッチョはマッチョ。すげぇ肉体をしていた。でも、魔法使いウィザードなんだぜ。


「ルーベは職業ジョブ魔法使いウィザード能力スキル冷撃フリーズです。ですが、彼はひたすら港町での仕事を繰り返すことで、自分で筋肉を手に入れたのです。魔法使いウィザードでありながらも、ひたすらに努力をすれば、その見返りはちゃんと得られるのです」


 女神様の言うことは間違ってない。もっともだ。だったら――


「俺の能力スキル『イケメン』の代償、女の子と話をするのが苦手というのも、努力すれば報われるかも――?」


「ええ、あなたの努力次第では」


 おっしゃーっ! 俺は心の中でガッツポーズをした。ルーベが仕事をしながら自然と筋肉を鍛えていったように、俺も女の子と話を繰り返すことで、ちょっとはまともに話ができるようになる……かもしれないってことか!


 少し希望が見えた。


「と、とにかく、マッチョ・ニーナ・リタ……ぷっ、E。あなたは十分強い。ですがこれから先、必要なのは仲間です。互いに足りない部分を補い合える仲間。それを探すよう、ここへ呼び出したのです」


 えっと、なんかいいことを言っているように聞こえるけど、笑ったよな。俺の名前を言いながら笑った。絶対。この「縛り」、女神様にも効果あるってこと? だけど女神様は女性だけど、話はドキドキせずにできるんだぜ。なんでだろう。ま、いいか。


「それはそうと、女神様。あの約束は本当に守ってくれるんでしょうね」

「……約束?」


「忘れたとはいわせないぞ! 『魔王を倒したら、願いを何でも一つ叶えてもらう』って言う約束!」


「……ああ。ええ、ええ、もちろんですとも! 魔王を倒した暁には、私のできる範囲で、ですが、願いを叶えて差し上げますよ」


 それを聞いて安心した。

 と思ったら、目の前がすうっと暗くなった。

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