第13話 海上での戦いです。

「ところで、ニーナ・リタはそんな布切れ一枚で大丈夫なのか?」


 ルーベが改めて、俺のタンクトップに短パン、サンダル履きという姿に心配そうに声をかける。


「そう言うルーベも一緒じゃないか」


 そう。彼も筋肉を見せつけるため……ではないだろうが、軽装だった。俺との違いは靴かな。しっかりとした革の靴を履いている。


「俺はこんな筋肉をしているけど、職業ジョブは「魔法使いウィザード」なんだ。能力スキル冷撃フリーズ」からもわかるだろう? だから機動力重視。でも……ってか、そういえばニーナの職業ジョブは何なんだ? その服装から察するに、武闘家か? ついでに能力スキルも教えてくれよ。これから共闘する相方として、知っておきたいんだ」


「俺の職業ジョブはマッチョ。能力スキルは……イケメンだ」


 女神様との契約のとき、こんなふざけた名前にしたことを激しく後悔した。だって恥ずかしいじゃん。職業ジョブマッチョ、能力スキルイケメンってなんだよ。いや、マッチョに誇りは持っているんだけどね。


「お……おう。なんか聞いたことのない職業ジョブ能力スキルだが……。え、攻撃方法は、魔法? 打撃? 武器はあるのか? それだけでも教えてくれ」


 だよね、困惑するよね。すまん、ルーベ。


「打撃だ。自分の能力を過信しているわけではないが、打撃が当たりさえすれば巨大なイカの怪物テンタクルスも余裕で倒せると思う」


「ほう、言うねぇ。なら見せてもらおうか、最強の戦士と名高いマッチョ・ニーナ・リタ・Eの力をな!」



 見せてもらおうかって言っても、あんだけ遠く海の向こうにいる敵をどうやって……と思ったら、ルーベが目の前の海に向かって冷撃フリーズを放ち、氷の道を作った。


「よし、この道を走って巨大なイカの怪物テンタクルスに近づくぞ! 俺は道を作り続ける。攻撃は任せたぞ!」


 え、もう? 打ち合わせもなしに?


 それだけ俺を信頼してくれているってことなのかな? 


 魔法を出しながら海を凍らせて走るルーベに、俺も続いた。


 巨大なイカの怪物テンタクルスは、自分に向かってくる俺たちに気づいたのだろう。10本の足をバタバタと振り、津波を起こす。


 それを俺がパンチ一閃。津波をかき消す。そこにルーベの冷撃フリーズが道を作る。それを繰り返しながら、俺たちは巨大なイカの怪物テンタクルス本体へと近づいていった。


「やるじゃないか、ニーナ・リタ!」

「そっちの冷撃フリーズも大したもんだ!」

 俺たちは初めての共闘とは思えないくらい、息が合っていた。同じマッチョ同士だからかな、なんて思ったり。


 すると、今度は巨大なイカの怪物テンタクルスが、自分の足で攻撃を仕掛けてきた。吸盤が無数についた長い足をムチのようにしならせて打ち付けてくるが、これも俺がパンチで迎え撃つ。


 で、パンチを打つたびに足が一本一本千切ちぎれて海に落ちていき、黒い霧となって消えていく。それを見て、ルーベが、

「……マジか。ここまでとは!」

 とか言ってくる。ギルドいちのマッチョにそう言われると、素直に嬉しくなる。


 そうしてついに海の真ん中で荒れ狂う巨大なイカの怪物テンタクルスのもとへとやってきた。敵はもう足を全て失い、あとはただやられるだけ。


 はい。今回もいつもと同じ。ちょっと場所が遠かったからルーベの力を借りたけど、俺たちの敵ではありませんでした!


 って正直、ちょっとだけナメてました。



 そしたら、このタコ、じゃなかったイカ。口から真っ黒いスミを噴射しやがった。やばい! 食らったらどうなるのかわかんないけど、避けられない! そう思ったときだった。


 目の前でスミが凍り付いて動かなくなった。背後にいたルーベが、冷撃フリーズで凍らせてくれたのだ。


「サンキュー、ルーベ!」

「おう! いっちまえ、ニーナ・リタ!」


 俺はその固まったスミを足場にして飛び上がり、巨大なイカの怪物テンタクルスの口のちょい上、多分顔面のところに、思いっきりパンチをした。


 バチン! という気持ちの良い音がして、その巨体が黒い霧となって消滅した。

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