第11話 もはや漁協です。

 港町ヴェンチ・プレイスの冒険者ギルドの外に、氷漬けになった大量の魚が並べられている。


 これが魔物?

 不思議に思って眺めていると、ルーベが自慢げに話しかけてきた。


「どうやって氷漬けにしてここまで持ってきたかって? いい質問だ!」


 いや、聞いてないけど。


「まず、船に乗って巨大な網を投下する。そして、しばらくしてからみんなで力を合わせて網を引く。これがまた背筋が鍛えられるんだよ、なぁみんな!」

「おう!」


 ルーベの背後にいるマッチョが嬉しそうに声を揃える。

 だから聞いていないんですけど。


「そしたら大量の魚が網にかかってる。それを俺の能力スキル冷撃フリーズ』で凍らせるだろ」


 するとルーべが二人のマッチョを呼んだ。一人は剣を持っていていかにも剣士といった感じ。鎧は着ていないけどな。もう一人はタンクトップに短パンを着用した老人だった。老人でもマッチョ・フォーマルを着こなしているのなのはさすがとしか言いようがない。いや、むしろ老人だからマッチョ・フォーマルなのかもしれない。


「で、俺が作った氷の塊を、こいつが得意な剣捌きで正確にカットする。そして最後にこのジイさんが能力スキル収納ストレージ』を使って全て持ち帰るんだ」


 へぇ、すごいな。って違う!


 魚って思いっきり言ってるし!


 しかも能力を使って漁してるだけじゃん!


「すげぇのはこっからよ! この魚たち、自然解凍して売ってもよし、能力スキル風刃ウインド』でカットしてもよし、すぐ食べるように能力スキル火炎ファイア』で焼いてもよし! お客様のニーズに合わせた売り方ができるんだよ! なぁみんな!」

「ウェーイ!」



「ウェーイじゃねぇ!」



 俺は突っ込まずにはいられなかった。


「?」


 ヴェンチ・プレイスの冒険者ギルドに所属しているマッチョたちはきょとんとした顔で俺を見る。あれ、俺たち何かやっちゃいましたか感を出すんじゃない!


「あのさ、俺は魔物が大量発生したと聞いて、手伝いに来たんだけど……みんなが退治したのって……魚のこと?」


 ルーベが胸を張って答える。

「おうよ! 最近こいつらが、近海の海藻を食べ尽くしかねん勢いで大量発生しているんだよ。もう、俺たちにとっては魔物同然よ!」


「魔物は倒したら消えちまうけどな!」

「っていうか、この街周辺は魔物なんてほとんどいないから、ここの冒険者ギルドは実質、漁協みたいなもんだ」

「確かに! ガハハハハ!」


 ルーベを始めとするマッチョたちは、今日の大漁にご機嫌なようだった。ちょっとした冗談を言い合って、お互いに笑い合う。


 ギルドメンバー……っていうか、漁師たち? の雰囲気は最高にいいんだけど、俺……そんなことで呼ばれたの?



「もしかして……もう俺の出番はない感じだったりする?」



 いやいや、とルーベをはじめ、他のマッチョたちも首を横に振る。


「それがよ、こんな状況が一週間続いているんだ! おかしいとは思わないか? まるでこの魚たちもような……」


 そんな話をしていると、海の方からドン! という音と魔物らしき咆哮ほうこう、そして少し遅れて人々の悲鳴が聞こえてきた。


「!」


「海の方からだ! みんな、行くぞ!」

「おうっ!」


「ニーナも着いてきてくれないか?」

「もちろんだ!」


 全速力で走っていくマッチョたちに遅れを取らないよう、俺もみんなの後についていった。



 数分後。



「で、デカい!」


 思わずヴェンチ・プレイスの屈強なマッチョたちも、そして俺も、そんな声を漏らしていた。


 たくさんの船が並ぶ海上のその向こうに、船の数倍の大きさもある巨大なイカの怪物テンタクルスが現れたのだった。

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