第10話 大漁だそうです。

「へぇ、王都の冒険者ギルドから! 遠いところからありがとう、歓迎するわ!」


 なんと港町ヴェンチ・プレイスのギルドマスターはスピナ・スージーという、ぷるんぷるんのお姉さんでした。俺が目のやり場に困っていると、突然スピナが俺の手を握ってきた。えっ、なんだなんだ。俺の顔が一気に赤くなる。


「ちょ……すすすスピナさん!?」


「へぇ、変わった名前ね、『マッチョ・ニーナ・リタ・E』っていうんだ。あ、マッチョだから……そういうこと!」


 え、何で俺の名前を知ってるんだ? まだ名乗ってないけど……。


「で、職業ジョブが……マッチョ? なにそれー! ウケるんだけど! で、能力スキルがイケメン……確かにイケメンだわ……っていうか、あなた面白いステータスしてるわね!」


 ……どういうこと? 俺が呆気に取られていると、スピナが種明かしをしてくれた。


「私の能力スキルは『鑑定眼ジャッジアイズ』。相手に触れれば、名前や職業ジョブ能力スキルや他のステータスを見ることができるの」


「な、なるほど、そういうことだったのか」


「この能力スキルが重宝されて、私はここのギルドマスターをやってるの」


 それは分かったんだが……俺はここの冒険者ギルドに入った瞬間から、強い違和感を覚えていた。それは――。


「どうして……だ、誰もいないんだ?」


 冒険者ギルドといえば、受付があって、依頼を受注しようとする冒険者たちで活気に溢れていて……ギルドマスターは滅多に顔を出さない存在で。っていうイメージがあったんだが……ここはギルドマスターが部屋の掃除をしていて、他には誰もいないんだ。受付嬢さえいない。


 どうなってんだ、ここは?


「ああ、そのこと! 今ね、みんなに出ているのよ。そろそろ帰ってくると思うんだけど……」


 スピナが言う。討伐って……俺、その討伐に協力するために呼ばれたんだけど。先に行っちゃってたってこと?


 すると、ドン! と勢いよく扉が開いて、「スピナ! 今帰ったぞ!」と屈強なマッチョたちが大勢入ってきた。うお! このメンバーがもしかしてヴェンチ・プレイスの冒険者たちなのか? みんなマッチョなんだけど! すげぇ!


 そんなことを思っていると、先頭でギルドに入ってきた、一際大きいマッチョが俺の存在に気づいて語りかけてきた。



「おいおいおいおい! なんかすげぇマッチョがいるじゃねぇか! 新入りか?」



 そう言って手を差し出してきたから、俺も反射的に手を出して、固く握手を交わす。うーん、握力も相当なもんだ。いいね! つい俺もぐぐぐっと力を入れてしまう。


「違うわよ、王都の冒険者ギルドから来てくれた協力者よ! 人手が足りないっていって、応援要請を出してたでしょ!」


 俺の後ろからスピナがそう説明してくれた。


「なるほど、そういうことか! こんなすげぇマッチョ、ここら周辺で見たことなかったからな! 俺はルーベ・スージー。スピナの兄だ。よろしくな!」


 ルーベと名乗ったマッチョの、俺の手を握る力が強くなる。おっ、力比べなら負けないぜ!


「俺はニーナ・リタ。よろしく」



「ニーナ・リタ……どっかで聞いたことある名前だな……あっ! あの最強の戦士って言われている『マッチョ・ニーナ・リタ・E』のニーナ・リタか?」

「あ、ああ」



 何なの? 世界中の人々がみんな俺の本名知ってるの? 俺はそんな縛りを課した女神様を若干疎ましく思った。思っただけで口には出してないからな!


 すると、ルーベの後ろにいた他のマッチョたちが

「いいな、かっこいい名前じゃないか……マッチョって普通、名前につけないぜ」

「しかも、名前負けしてない体……さすがだぜ」

 とか言ってるし!

 

 初めての反応に、ちょっと俺の大胸筋がむず痒くなる。


「ねえねえ、マッチョたちのマッチョトークは置いといて、お兄ちゃん、魔物はちゃんと討伐できたの?」


 スピナがそう言うと、ルーベが自信たっぷりに答えた。


「もちろん、だったぜ! 」


 ……は? 大漁? 魔物が? 倒したら黒い霧になって消える魔物が、大漁?

 どういうこと?

  

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