第2章 救援依頼、港町ヴェンチ・プレイス。

第9話 新しい出会いです。

 港町ヴェンチ・プレイス。


 ここは漁だけでなく、他の大陸との貿易も盛んなようで、街自体が活気にあふれている。

 王都の活気とはまた違う種類の、うーん、なんていえばいいんだろう。とにかく、食料品を扱う店が多い。王都にはない種類の野菜が売ってあったり、いろいろな種類の魚が所狭しと並べられているんだ。

 

 おまけに店の主人も元気いっぱいで、「ちょっとでいいから見ていってよ!」とか「試食だけでもしてくれよ!」と、歩いているだけでどんどん声をかけてくる。


 昔の俺ならビクビクしながら通り過ぎるだけだっただろうけど、今は違う。イケメンマッチョのニーナ・リタだからな。「おっ、うまそうだな!」といって野菜を試食させてもらったり、「それどこ産の?」と足を止めて会話を広げたり、コミュニケーションを楽しむこともできるようになったんだ。


 ただし、男性限定だけどな。


 そんな感じで大通りを歩いていると、「うわぁ、超かっこいいお兄さんじゃん。しかもなんか強そうだし。ねぇねぇ、ちょっとうちのとこでお話ししていこうよ!」と、大胆に胸元の開いた服を着た女性が俺に話しかけてきた。


「ねっ!」


 ぴょん! と俺の前に出てくると、それに合わせて彼女の胸がぷるんと上下に揺れる。



 け、けしからん! 鼻血がでそうだ!



 もちろん俺は、その女性を直視することができなかった。恥ずかし過ぎたので「あ、ご、ごめんなさい」と言って、その場を離れることしかできなかった。港町、しかもこんな太陽が照りつける暑い時期からといって、あの服装はないでしょ、ドキドキするじゃん。


 お前の格好こそ、タンクトップに短パン、サンダルだろ、なんていう野暮なツッコミはなしな。これは俺のマッチョ・フォーマルなんだから。


「えー、いいじゃん。強そうなのに! 気が向いたら来てねー!」

 

 女性の声を背中に受け止めながら、俺は少し小走りでその場を離れた。

 

 とにかく向かうべきは港町ヴェンチ・プレイスの冒険者ギルドだ。王都の冒険者ギルドに救援要請がだされたほどだ。何か大変なことが起きたに違いない。うまくいけば、魔王に関する手がかりも何か見つかるかもしれない。

 

 ……にしてもだ。

 

 この港町ヴェンチ・プレイスは広過ぎないか? 道の端までずらっと店は並んでいるし、行き交う人は多いし――さっきのお姉さんじゃないけど、結構みんな露出度の高い服装だから目のやり場に困るし。

 あ、でも漁師って結構マッチョが多い気もする……魚の入った荷物を持っている漁師さんたちとすれ違うが、なかなかいいマッチョっぷりだ。


 そんなこんなで、俺は街の案内図を見ながら、そして多くの店の主人とうまく会話をしながら――もちろんこれは情報収集も兼ねているんだぜ、試食ばっかりしているわけじゃないんだぞ!――なんとか、この街の冒険者ギルドにたどり着いた。

 

 一見何の変哲もない、二階建ての一般的な冒険者ギルドなんだけどな。緊急事態というふうにも思えないほど、普通。


 扉を開けてギルドの中に入ると、そこには掃き掃除をしている女性が一人。そして、入ってきた俺を見て一言。



「あっ! さっきの強そうなお兄さん!」



 そう、ギルドの中にいたのは、さっき道端で俺を呼び止めたあの女性だった。持っていた箒を壁に立てかけて、俺の元へ小走りでやってきた。


 ぷるるん! とまたしても大胆に開いた胸元が揺れる。だから、直視できないんですって、お姉さん!



「あの……ここ……ぼぼ、冒険者ギルド、あって……ます?」



 なんかカタコトの言葉になってしまったけど、俺の言葉にお姉さんがニコッと白い歯を見せて、ピースをする。



「ええ、ヴェンチ・プレイスの冒険者ギルドへようこそ! 私がここのギルドマスターのスピナ・スージーよ!」


 ……お姉さん、ギルドマスターだったんかい!

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