第8話 会食もおしまいです。
「イケメン……ですか?
「ああ」
俺は堂々と言った。
イケメンになれば、人が集まってくる。ってことは、冒険者ギルドとかでパーティを作る際にも有利に働く、はず。俺の他にも優秀なスキルを持つ戦士や魔法使いと力を合わせて魔王を倒す。なんと完璧なプランではないか!
そんなことを考えていると、女神様が申し訳なさそうに言った。
「えっと、あなたの意思を決して否定するわけではないのですが……本当にそれでいいのですか? もっと他に……」
「イケメンで」
俺に迷いはない。
「他にもいい
「イケメンで」
元の世界で成し得なかったことを、俺は新しい世界で実現してみせるのだ!
「特別に
「イケメンで」
くどい! くどいぞ女神様!
そんなこと、面と向かって言えるわけないけど!
はぁぁ、女神様はさっきよりも大きなため息を一つ吐くと、俺の頭に手をかざしてくれた。暖かな光が俺を包み込む。
「
「えっ、
「もちろんです。強すぎる
なんか女神様の態度が冷たくなったような気がするのは気のせいかな? さすがにちょっとわがまま過ぎただろうか? いやいや異世界を生き抜くためにはこのくらい強気の方がいいよ……な?
光が失われると、俺は見事にイケメンになっていたのでした。
30歳という年齢の割には若く見えそうな感じも、またいい。
そして、マッチョになったときと同様に、恐ろしい対価を支払わなければいけなくなったことに、そのときの俺はまだ気付いていないのでした。
◇◆◇
「いやぁ、何度聞いても面白いな、ニーナの話は。なぁ、コレット!」
ギルドマスターのムキーノがそう言って、酒を飲む。
コレットちゃんも、
「初めて聞きましたけど、めちゃくちゃ面白かったです! 私も女神様に会ってみたいなぁ」
とまるで
まぁ、元の世界で死んで、異世界にやってくるということ自体が御伽話みたいなものだからな。信じる信じないとかはともかく、こうやって話していることをちゃんと聞いてくれるだけでも嬉しいってもんだ。
「ところで、ニーナさん。イケメンの代わりの対価って何だったんですか? それ知りたいです!」
うっ、それを聞いてくるか。だよな、話の流れ的にそうなるよな。俺が困った顔でムキーノを見ると、「しょうがねぇな」という顔をして、彼が代わりに答えてくれた。
「俺が教えてやるよ。こいつはな、女の子と話をするとドキドキしてうまく喋れないんだ。それがイケメンの対価。だよな、マッチョ・ニーナ・リタ・E!」
俺はちょっとだけ恥ずかしくて、下を向いてうなづいた。
そうなんだよ。
女神様がイケメンにしてくれたのはいいんだが、その対価として『女の子と上手に話せなく』なってしまったんだ。男性は全く問題ないんだ。むしろ元の世界にいたときよりも、上手に話ができるようになった。だけど、女の子がだめ。思春期の学生か! っていうくらい、ドキドキしてしまうんだ。
「へぇ、意外。それだけイケメンだから、女の子選び放題かと思っていました!」
「そ……そんなことは、ない、ない、ないんだよ!」
俺は噛み噛みになりながらも、コレットちゃんにそう返事をした。
食事も終わり、俺たちは店を出て城下町を歩く。
すっかり日は暮れて、街も夜の装いになっていた。
もちろんそれぞれ帰る家は別々だが、途中までは帰り道が同じ。食事のときみたいに話は尽きることがない。あ、俺は持ち家とかはないから、冒険者ギルドの近くにある安宿に寝泊りしているんだ。
「でも……『魔王からこの世界を救ってください』っていう女神様の言葉が気になりますね。最近増えている魔物の討伐依頼との関わりがあるんでしょうか?」
コレットちゃんが言う。「どうなんだ?」とムキーノも聞いてきた。
「女神様が言うには『まだ魔王は力を蓄えていて、姿を表してはいない』らしいんだ。だから俺は旅をしながら、その魔王の芽を見つけて潰さなければと思っているんだが……いかんせん手がかりがなさ過ぎて」
俺が答えると、ムキーノがニヤリと笑った。
「そんなニーナ・リタに朗報だ。ちょうど食事をする前に、遠く離れた港町ヴェンチ・プレイスから救援依頼が届いたんだ。何でも、大量発生する魔物に困っているらしい。もしかしたら、その魔王とかやらと関わりがあるのかもしれないぞ。そこで、王都の冒険者ギルドのメンバーを代表して、お前が向かってくれないか?」
そりゃまたタイミングがいいな……って、もしかして、最初からそれを言いたくて食事を!?
ムキーノを二度見すると、彼はニコニコしながら、
「よろしくな! 王都の冒険者ギルドの有望株、ニーナ・リタ!」
と、俺の肩を叩いた。
なんていうか、上手いなぁ。まあ、少しでも魔王に関する手がかりがつかめるのなら、俺はどこにだって行く。それが女神様との約束でもあるからな。
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