第7話 能力を選びます。

 王都キントレーの城下町にある居酒屋で、俺はギルドマスターのムキーノ、そして受付嬢のコレットちゃんと食事をしている。


 今、俺が女神様との出会いの話をずっと喋っているけど、そんなに面白いかなぁ? そう思って、話の切れ目に酒をぐびっと飲みつつ、二人を見る。二人は目を少年少女のように輝かせながら、食事は二の次にして、俺の話を聞きたいと待っていた。


「……そんなに面白い? この話」


 すると二人は、「もちろん!」と声を揃えて言った。まずこんな話をしても信じてもらえないと思っていたけどな……。

 すると、なんか自慢げにムキーノがコレットちゃんに説明し始めた。



「それでな、ニーナの見た目がマッチョになった代償が、名前なんだよ。なあ、『マッチョ・ニーナ・リタ・E』!」



「やめてくれよ!」

 少し酒も入ったからか、冗談まじりでおれはムキーノに返事をする。そして、コレットちゃんをちらりと見る。


「あはははは、そうだったんですね! 初めは誰でも笑……びっくりしちゃいますよね。『マッチョ・ニーナ・リタ・E』っていう名前、この世界じゃ絶対聞かないですもの」


 だよな、俺の名前を聞くとみんな初めは笑うんだ。


 いいの。もう慣れっこだから。これが俺に課せられた、体をマッチョにした「代償」だ。

 

 多分あのとき「マッチョになりたい!」「マッチョになりたい!」って連呼したから、こんな名前になったんだよなぁ……と思いながらも、内心マッチョになれて満足している自分もいるんだ。後悔はして……ない。うん。してない。


「ニーナさん、女神様との話、まだ続きあるんですよね?」

「え、ああ。もちろん」

「私、続きを聞きたいです!」


 もう、仕方ないなぁ。俺はテーブルに乗っている酒をぐいっと飲み干すと、従業員のお兄さんにお代わりを注文して、続きを話し始めた。


◇◆◇


 女神様が言う。

「さて、職業ジョブはマッチョ、見た目もマッチョ。……本当にいいのかしら」


 いいんです。これこそ俺が望んだ姿なんです!


「最後に能力スキルを一つ、付与いたします。何か希望の能力スキルはありますか?」


 能力スキル……これ大事だよな。ここも慎重にいかないといけないな。


「どんな種類の能力スキルがあるんですか?」


 女神様は嫌な顔一つせずに――さっきのマッチョのくだりは呆れてたような気もするけど――能力スキルについて説明してくれた。


「例えばですが、鑑定眼ジャッジアイズ。これは相手のステータスなどを覗き見することができる能力スキルです。」


「面白そうだな」


「他には……透視スペクション。距離は様々ですが、障害物を取り払って対象を見ることができるとか……料理クック忍び足スニーク解体デモリション収納ストレージ吸収ドレイン反射リフレク……私の力の及ぶ範囲であれば何でも可能ですよ」


「これはのちのち変更したり、追加したりは……」


 女神様は首を横に振った。

「残念ですが。ただ、強化だけは可能です」


 なるほど、おおかた仕組みは理解できた。あとは異世界で何が起きるか……だな。魔王も倒さないといけないから、攻撃系がいいとか? あ、装備しない「縛り」があるから、防御系がいいのか?


 俺が悩んでいると、女神様が何か道具を一つ準備してくれた。スマホのようなタブレットのような、四角い板状のものを手渡された。


「これは?」

「あなたに最適な能力スキルを付与してくれるアイテムです。能力スキルは自由度が高い分、なかなか選ぶことができませんからね。それを自動で行ってくれますから便利だと思いますよ」


 その板状のものは鏡のように、覗き込む俺の顔を映し出した。言いたくないけど30歳、独身、彼女なし。そりゃこんな顔だもんな……。異世界行ったら、漫画みたいにハーレムとか作れるかなぁ。



 はっ! そうだ! その手があったか!



「決めた!」


 俺は女神様から手渡されたアイテムを使うことなく、そのまま返すことにした。当然、女神様はきょとんとする。


「へっ? そのアイテムを使わずに……ですか?」



「そうだ! 能力スキルは……『イケメン』で!」


「い……イケメン?」

 また俺と女神様の間に変な空気が流れ始めた。

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