第6話 職業を決めます。

職業ジョブが……マッチョ?」


 女神様が困惑している。無理もない。勇者、戦士、魔法使い、魔法剣士、武闘家……の並びにマッチョがあるわけないのだから。だが俺にはある秘策があったのだ。



「ああ、マッチョだ。マッチョは、武器を一切使わない。己の体が武器そのものなのだ!」

「はぁ」


「それにマッチョは、防具も装備しない。タンクトップと短パン。己の体が最強の鎧なのだ!」

「はぁ」


「さらにマッチョは、魔法などに頼らない。己の体は己で鍛えていくのだ!」

「はぁ」



 なんか途中から女神様が聞く気を無くしているような気もするが……せっかくの機会なんだ。元の世界でなりたくてもなれなかったマッチョに、俺はなりたいんだ!

 いや、言い方が違うな。

 マッチョ王に、俺はなる! このくらい強気の姿勢がいいんだろう。


「武器なし、防具なし、魔法なし。この代償を払えば、相当強い力を得ることができるんじゃないか?」


 女神様は「うーん」と頭を悩ませながら、目の前にタンクトップと短パンの人を姿を作り上げた。


「……うわ、すごい。武器なし、防具なし、魔法なし。これなら基礎ステータスが常人の数十倍になります!」


 ほらみたことか! すごいぜ、俺!

「よし、じゃあ職業ジョブはマッチョに決まりだ!」


「わかりました。じゃあ、職業ジョブは……マッチョ……と。こんなの、初めて聞きましたよ」


 すると、俺の姿がタンクトップと短パンの姿に変わった。お、これは職業ジョブがマッチョになったってことでいいのかな。


「できれば……タンクトップはホワイトがいいな。あと、短パンはデニムで」

「……注文が細かいですね」

「ははは、マッチョといえばそれがフォーマルだからね」

 

 女神様が俺に向かって手をかざすと、注文通りタンクトップがホワイト、短パンはデニムになった。よし、いいぞ。なんか俺はゲームのキャラクターを作成しているような気分になってきた。


「では、次は見た目ですが……今のままでもいいですか? それとも変えたいところがありますか?」


 女神様に言われて、改めて自分の体を見つめてみた。ま、正直言って30年弱み続けてきた俺の体そのままだ。一応ジムに通ってトレーニングを重ねてきたものの、なかなか自分の理想とする体型には程遠いものだった。職業ジョブはマッチョ、服装もマッチョ・フォーマル。だけど体がこれじゃ、なんかアンバランスだ。俺は言った。



「マッチョになりたい!」

「はぁ?」


職業ジョブマッチョ、見た目もマッチョ! マッチョになりたい!」

「……先ほど、あなた『マッチョは魔法に頼らない』とか言ってたじゃないですか!」


「マッチョになりたい!」

「もう……先ほども言いましたが、それなりの力を得るには、それ相応の代償が必要になるんですよ、それでも――」


「マッチョになりたい!」


「だから代償が――」


「マッチョになりたい!」


 はぁ、と女神様はため息を一つ吐いて、俺に手をかざした。すると、俺の体が理想とするマッチョ体型へと変わったではないか。


「これだ、これ! マッチョになった! マッチョになった!」

「……職業ジョブマッチョは知能が低下してしまうのかしら……それともこの人、もともと――」


 せっかく職業ジョブがマッチョになったんだ。体までマッチョじゃないと、みっともないじゃないか。ちょっとを通し過ぎた気もするが、最初で最後の異世界転生。準備は入念にさせてもらうぞ。


 ってそのときは息巻いていたんだが、まさか、見た目をマッチョにすることで、恐ろしい代償を払わなければならないなんて、この時の俺は思ってもいなかったんだ。

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