第3話 ボスを撃破します。

 まさか自身の武器が破壊されるとは思っていなかった一つ目の巨人サイクロプスは一瞬たじろいだものの、すぐに大きく口を開けて俺を威嚇いかくした。


「お前、生きて帰れると思うなよ! この城にいる全兵力でお前を潰す!」


 グオオオオオ! と一つ目の巨人サイクロプスは雄叫びを上げた。その振動で城中が揺れ、さっきこいつがぶっ壊した天井から壁の一部が崩れて落ちてくる。やめろ、それ以上城を壊さないでくれ。


「……なぜだ? なぜ誰も来ない?」


 雄叫びを上げたあと、しんと静まり返る王の間で、一つ目の巨人サイクロプスはきょろきょろとあたりを見回した。今のが仲間を呼び寄せる合図だったんだろうな。


「だから、さっき言っただろ。正面突破したって」


 言葉の意味を理解できたのか、一つ目の巨人サイクロプスは驚いて一歩、後ずさった。


「巨人族の戦士たちを全員倒してここへきたというのか? 精鋭を揃えていたというのに!」

「ま、そういうことだ」


「武器すら持っていないのにどうやって……はっ、お前は魔法使いウィザードか! 魔法を使ったんだな!」


 はい残念。違います。純粋な物理攻撃です。


 魔法使いウィザードが杖も持たずに魔法を撃てますかってぇの。それにこんなにムキムキな体を持つ魔法使いがいますかってぇの。まぁ、巨人族にとってみれば、マッチョな人間もそうでない人間も同じようにしか見えないのかもしれないな。仕方ないか。


 実はこれも自分自身に課した「しばり」の一つ。武器を装備しない代わりに、腕力を――つまり、物理攻撃力を大幅に上昇させているんだ。って、そんなのはたから見ても誰にもわからないんだけど。


「魔法使いであれば、物理攻撃に弱いなぁ! 一撃でも食らったらお終いなんだろ!」


 懲りずに一つ目の巨人サイクロプスは両腕を広げて、俺を横から潰そうとしてくる。無駄なのに。さっきの攻撃でわかんないかなぁ。



 ぺちん。



 俺が両手でその攻撃を払いけると、一つ目の巨人サイクロプスはバランスを崩して倒れ……やべぇ! そのまま後方に倒れたら王の間が崩壊するじゃん!


 慌てて俺は一つ目の巨人サイクロプスに近づき、顔面――ちょうど目玉の中心――に一撃、パンチをたたき込んだ。


 城の主はその一撃で、床や壁にぶつかる前に、黒い霧になって消滅した。


 あっっぶねぇぇ!


 情報を聞き出すことはできなかったけど、お城をぶっ壊さずには済んだ……ぞ。そう思いながら俺は天井を見上げた。


 先ほど一つ目の巨人サイクロプスが棍棒を振り上げたせいで、そして雄叫びを挙げやがったせいで、天井や側面の壁がすっかり崩れ落ち、真っ黒い雲に覆われた空が見えていた。


 ザアアアァァァ。


 雨が降り始めた。俺も泣いた。

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