第2話 正面突破します。

 一つ目の巨人サイクロプスの城は、もともとはこの辺一帯を治めていた人間の王のものだったらしい。そこに巨人族が強襲。王を追い出して住みつくようになったのだという。


 あ、これは冒険者ギルドの受付で聞いた話ね。


 んで、最近その巨人族どもが行商人を襲うことが多くなったということで、そいつらの討伐と城の奪還の依頼が出されたんだ。報酬もなかなかの額だったんでとりあえず引き受けてみたんだが、さっきみたいな向こう見ずな冒険者も結構いるみたいだ。ま、もう助けたりしないけどな。笑われるから。


 城に着くまでに何体かの一つ目の巨人サイクロプスが邪魔してきたけど、全くもって俺の敵じゃない。軽くあしらいながら、俺は城の最上階、王の間へとやってきた。


 そこにはこれまでよりもはるかにデカい一つ目の巨人サイクロプスが偉そうに座っていた。おそらくこいつがここのボスに間違いない。


「お前だな、ここを支配しているのは!」


 俺がいうと、一つ目の巨人サイクロプスがゆっくりと立ち上がる。ずずずっと影が大きくなり、天窓からの光を遮って王の間全体がボスの影で覆われた。背丈は俺の三倍ぐらいはあるだろう。っていうか、そんだけデカいんだから、もともと人間用に作られたこのお城は天井がっていうか、何もかもが小さすぎるだろ。住むなら他のところに住めよって言いたくなった。


「お前、人間のくせにどうやってこの城に入り込んだ?」


 さすがボスは片言かたことじゃなくて、ちゃんと喋る。そしていきなり攻撃してこない。少しは知性があるのかも? 俺はちょっと探りを入れてみることにする。


「ちゃんと正面突破してきたぞ」

「ふむ、そこには腕っぷしのいい門番がいたはずだが……ああ、なるほど小さいから気づかれないように中に入ってきたということか。その装備から合点がいったわ」


 ……どうやら俺の服装を見てそう判断したらしい。まあ、確かにタンクトップに短パン姿、おまけにサンダルを履いているから盗賊系シーフだと思われても仕方がない。


 だがな、残念だった。これは俺が俺に課した「しばり」だ。防具を装備しないことで、俺は物理防御力を最大限まで強化しているんだ。当然、そんなの一つ目の巨人サイクロプスには教えないけど。教えたところで意味ないからね。


「おまけに武器すら持たずに……なんだ、俺様に交渉でもしにきたのか?」

「ん、まあそんなところだ」


 一つ目の巨人サイクロプスは、その大きな目をさらに見開いて俺をみる。


「人間如きが巨人族と交渉するだと? はっはっは、おこがましいわ」


 ドン! とボスは手に持っていた棍棒を床に叩きつける。床がひび割れて、破片が舞い飛ぶ。おまけに風圧で俺の服もバタバタとなびく。


 ――あっ、城がぶっ壊れるからやめろ!


 そんなことを思ったけど、俺は動じない。その姿に一つ目の巨人サイクロプスは「チッ!」と、明らかにイラついていた。それに構わず、俺は尋ねる。


「どうして行商人を襲う? 巨人族には手出ししてないはずだ」

「俺たちの縄張りに勝手に入ってきたんだ、侵入者は殺す。それだけだ」


 やべ。なんか話が通じそうな相手じゃないかも。


「もともとはお前たちも人間の縄張りに勝手に入ってきたんじゃないか。お城を奪っておいて、よくもまあそんなことを……」

「うるさい!」


 再び一つ目の巨人サイクロプスが棍棒を振り上げた。それは勢い余って天井を突き破り、そのまま壁を破壊しながら俺に振り下ろしてくる。ああ、もう! せっかくきれいに残されたままのお城を破壊するな! この攻撃も避けたら絶対に床が破壊されて、下の階まで穴が開くやつじゃん!


 仕方なく、俺はグーパンチで棍棒を迎え撃つ。


 グシャァッ!


 振り下ろされた棍棒は、俺の拳がぶつかったところを中心に粉々に砕け散った。

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