「縛りプレイ」で異世界無双

まめいえ

第1章 冒険の始まりは王都キントレーから。

第1話 縛りプレイしてます。

 ごつごつとした岩が無数に転がる荒れた大地。

 空は、真っ黒い雲が太陽を覆い隠し、あちこちで雷鳴が轟く。


「うわああぁぁっ!」

「来るなっ、来るなぁっ!」 


 俺の目の前で、女性冒険者数名が腰を抜かして怯えている。まあ無理もない。自分の体の数倍の大きさはあろう、一つ目の巨人サイクロプスがこちらを威嚇しているのだから。さらに巨大な棍棒まで手にしているんだから、ビビるなっていう方が無理だろう。


「オ前ら、ココが俺たちの縄張りと知っテテ入ってキタんだろうナァ!」って、喋れるんかい、お前。そうだよ、こっちは当然わかっててやってきてんだよ。


 あ、目の前にいる役立たずの冒険者たちは俺とは一切無関係だから。初対面だし。そんなことはどうでもいいとして、俺は黙って突き進み、一つ目の巨人サイクロプスと対峙する。


「あ? ナンだテメエは!」


 堂々と立っている俺が気に入らなかったのか、ヤツは俺の返事を待つことなく、棍棒を振り下ろしてきた。


「?」


 自分よりも体の小さい人間なんて、一発で潰せると思ってたんだろう。だが残念だったな。俺にそんな攻撃は通用しない。だって女神様との契約で、俺は防御力を最大限まで強化しているから。


 左手をひょいと出して棍棒を受け止めると、今度は上に払い上げる。


「ウオ!」

 

 振り下ろした棍棒がまさか自分に戻ってくるとは思うまい。それは一つ目の巨人サイクロプスの無防備な顔面に直撃した。おし、狙い通り。

 

 そのまま一つ目の巨人サイクロプスは後方に仰向けに倒れ、黒い霧となって消滅した。はい、一丁上がりってか。普通の冒険者ならまず勝ち目のない相手だが、残念ながら相手は俺でした。

 


 ふう、と一つ息を吐くと、俺はいまだに腰を抜かしている――だけど驚きと憧れの目で俺を見つめている――冒険者たちに近づき、一人ひとり手を伸ばして立ち上がらせた。

 

 やば……手汗やば。冒険者といえども相手は女性。手とか握っていいの? いいよな。だって起き上がらせるためだもんな!


「だ……大丈夫……だったか」


 くそ、女性とは緊張してしまってどうもうまく話せない。仕方ない、これも女神さまとの契約した「しばり」の一つだ。


「あっ、ありがとうございます! すごいですね、あの一つ目の巨人サイクロプスをいとも簡単に倒すなんて」


 冒険者のうちの一人、ローブを身に纏った女性が俺の手を握って、目をキラキラと輝かせながら感謝の言葉を述べる。おっ、もしかしてこれは……俺に惚れちゃったパターンか? 


「こっ、これくらい、た、たいしたことはないよ」

 ちょっとカッコつけて俺は返事をする。ふふふ、イケる。今回は大丈夫そうな気がする! 


「あの……お名前だけでも教えていただけませんか」


 今度は鎧を纏ったいかにも戦士といった女性が顔を赤らめながら話しかけてきた。気がつくと他の冒険者たちもハートにさせながら俺の周りに近づいてきているじゃないか!


 きたきたきたきた。異世界でハーレムを作る展開キタコレ。


 ごほん、と少し勿体ぶって、そしてちょっと低めのダンディな声で囁くように言うといいんだよな。



「ニ、ニーナ。お、俺の名前は、ニーナ・リタだ」



「ニーナ・リタ……あっ!」

 目の前にいる女性が掴んでいた俺の手をぱっと離し、人差し指を俺に向けた。


「ニーナ・リタって……あの! 女神様が召喚したとか言われている最強の戦士……ぷっ! あはははは! ほ、本名が『マッチョ・ニーナ・リタ・Eイー』のニーナ・リタですか? あはははは!」


 ああ、やっぱりダメだ。くそう!


 そいつ――もう女性とか丁寧な言葉を使いたくなくなった――は、俺のフルネームを繰り返しながら笑い続ける。それを聞いた他のやつらも同様に腹を抱えて笑い始めやがった。


「マッチョ・ニーナ・リタ・E……あはは! オモロ!」

「Eって何よ、Eって! 5匹目ってこと? ぎゃはははは!」

「っていうか、十分マッチョなのに、まだマッチョになりたいって、最高!」


 ハーレムを作る展開……には残念ながらならなそうだ。くそ、いつもこうだ。どいつもこいつも名前を言うと腹を抱えて笑いやがる。こんなことなら助けてやらなきゃよかった。でも助けないと女神様にまた呼び出しをくらうかもしれんからな……。


 さっきまで一つ目の巨人サイクロプスに腰を抜かしていたくせに、この女どもときたら俺の名前で腹を抱えて地面に膝をついて笑っていやがる。


 もう知らん!


 俺は、俺の名前で笑い続ける冒険者たちに背を向けると、この荒れた大地の向こうに見える、一つ目の巨人サイクロプスの巣食う城に向かって歩き出した。

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