第37話 元勇者 VS ??????
……ふと、
唐突に。気付くとすでに、そこに。
音さえたてず、姿が現れた。
その何者かは、あたりを取り囲む暗い草木のただ中にあって、どこか奇妙に異質な空気をただよわせ、こちらをうかがっている。
……一見、ごく普通の少女だ。
顔だちも、髪型も、身体つきも普通。
休日向きのカジュアルな服装ではあるものの、見た目の年齢からして、この城山一郭にある
ただ、おだやかなほほ笑みをたたえてこそいるが、細められたその目もとから本来の感情を読みとることはかえって難しく、そこには何か
何か異形の者が、この少女には憑りついている。
異世界で幾多の冒険を体験した元勇者――
さらにいえば、その異形の者と彼は過去に会っている。
それを裏付けるがごとく、少女は親しげに両手を広げると、草を踏んで歩み寄り話しかけてきた――。
「やあ、勇者ヒデオ。いや、いまは元勇者というべきか。しばらくだ、私のことはまだ覚えていてくれるかな?」
「――、……精霊王ジェナ⁉」
ややあって、乾いた
「おそれいる、やはり君にはたやすく見破られてしまうか、こんな少女の体を借りていても。ちなみにこの娘は君の学園の生徒で、
「――、……なぜあなたが
突然の再会を引き金に、
精霊王ジェナについて。
そも、精霊とはなんであったか。
――いにしえより生き続ける、神々の使い。
――万物の根源をなす《
――
そのすべてを管理し各世界の
かつてこの城山で落雷に打たれた
いま、その精霊王ジェナが、
「おや、そんなに驚きと期待の入りまじる目で私を見ないでくれ。何も君をまた
「――、……娘に、ユーシヤに、用?」
高い木々の葉がこすれあい、二者の頭上でざわめく。
「そう、
「――、……待ってくれ。いったいなんの話をしている?」
「いまさら、知らぬわけでもなかろう? 転生者と異世界人のハーフには、《世界を変える力》が眠る、と。まったく、君の娘、ユーシヤは
「――、……《シンセイジン》……だと?」
「新世界をもたらす聖なる超人、聖属性生物の進化の頂点のことだ。《聖なる魂》を宿すユーシヤに、大量の
草むらに立ちつくし、どうにか話を追う
どこにでもいる少女の姿で、精霊王ジェナはなおも冗舌に語る。
「そう、《新聖人》。すでに手はずの大半は整っている。ここしばらく、この世界の人間を何人となく私の加護によって異世界転生させてきた。それもこれも、異世界転生の乱発によって各世界とこの地の境界にほころびを生じさせるためだ。そのほころびから、何年もかけ私は無数の
「――、……なっ⁉ では、つまり……」
飲み込みきれぬ話の展開を、無理やり飲み込んで。
相手に目を見ひらく元勇者ヒデオの口から、ある種の不吉なひらめきがこぼれた。
「……つまり、あなたの流入させた
「解説ありがとう。理解が早くて助かるよ、元勇者ヒデオ。さすがは異世界経験者だ」
優雅な称賛の拍手が、山々の暗い木々にこだまする。
それは
「――、……だが、まだわからない。あなたは精霊王――、神々にもっとも忠実な存在のはず。精霊とは、森羅万象の源たる
「まさにそこだよ」
どこにでもいる少女、否、精霊王ジェナは
「創世以来の
いまいましげに、天をあおいで。
「それゆえに、私は我慢ならなくなった。このままでは永遠に、全世界は神々の鑑賞物にしか過ぎん。これ以上の発展は望むべくもなく、停滞、むしろ衰退へとまっしぐらに向かっている。神々は何をしている? おのれの創り上げた世界が脅かされることを恐れ、たがいへの干渉を嫌い、それぞれが自分の世界に引きこもって鑑賞という名の自慰にふけるばかり。より善き世界を到来させるのは、やつらのような
――
かつて彼が勇者ヒデオであったとき、多くの魔物や闇の魔王を前にそうしたように。
「――、……よくわかった。すまないが精霊王ジェナ、あなたを全力で止めさせてもらう」
「参考までに聞くんだが、それは父親としての君の意見か? それとも元勇者としての?」
「――、知らないな。ロクな父親じゃなし、元勇者とて異世界を追放されたに等しい身だ。だがこんな俺でも言えることはある。……あの子は、ユーシヤはユーシヤだ。《新聖人》など、いらぬお世話。あの子が何者であるか、あの勇気の光でどんな世界を照らし生きるかは、あの子自身が決める。あなたでも俺でもない……。はぁぁぁっっっ!」
左にかまえた手刀。
その刀身に青い雷光が
「ほう、私が君にあたえた加護はとっくに期限切れのはずなんだが。まだそれだけの勇気の光を隠し持っていたとは、まさに元勇者の
じれてくりだした
しかし相手は息さえ切らさず、余裕そうに唇をひらく。
「君の方から動いてくれて手間がはぶける。実は《新聖人》にする前に、
ヅギュシュッ。
「氷の
太く巨大な氷柱と化した少女の両腕に
間を置かず、鮮血とともに氷柱は引き抜かれ、
うつ伏す彼の左手が地面をひっかくように二度、三度と
「お役
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます