第39話 ヒロインは告白する 《前編》

 俺のさしかけた傘の下で背を向けたまま、ポツリポツリとかいユーシヤは語った。


 かなり長い話だ。

 物語、と言っていいかもしれない。


 でも降りしきる雨の中、眺める池に波紋がひろがるうち、ユーシヤの語る物語は一瞬で終わったようにも思えた。



 ユーシヤの親父さん、かいひでがかつて異世界へ転生したこと。


 彼が精霊王の加護を受け、青髪青マントの勇者ヒデオとして活躍したこと。

 勇者固有の最強武器を手に。

 ――勇気が光り輝いて剣のかたちをなす、《聖剣》を手に。

 闇の魔王を倒し、異世界を、そしてとらわれの姫君を救ったこと。


 そんな勇者ヒデオと、救われた姫君マーシヤとの間に生まれた赤ん坊が、ユーシヤだということ。


 つまりは、転生者と異世界人のハーフ。


 異種異質な魂のこんこうから生まれたその身には、神々さえおよばぬ絶大な《世界を変える力》が眠る……なんて伝説もあって。


 だからユーシヤの存在は、きんの子として神の怒りに触れる可能性があった。

 神罰を避けるため母親は自らを犠牲にし煉獄へ魂を捧げ、さらなる神のゆるしを得るべく夫と娘をも手放してこちらの世界へ返還した。


 ちなみにおやの転移を助けたのは、勇者ヒデオの2人の冒険仲間。

 ドワーフのフゾ、現かい学園学園長、ふうぞう

 エルフのフーカ、現学生食堂調理師主任、ふう


 さておき。


 母から王家の血統を、父から転生勇者の遺伝子を受け継いだ青髪碧眼の赤子ユーシヤ。

 その身には、生まれつきの勇者の証か、《聖なる魂》が宿っていた。

 聖剣を生みだす無限の聖属性エネルギー――を秘めた魂が。

 ひたいにはほの青き紋章が浮かび、それはどうやら父ヒデオの出身世界で勇気の意をあらわす《勇》の文字――。


 つまり。


「――つまり、ボクは。生まれつきこうなんだよ。青髪碧眼、ひたいには青い《勇》の紋章」


「……」


「はじめて《聖剣》をだしたのは3歳のとき、偶然だった……」

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