第35話 どこにでもいる少女の視点

 もうたちが転生徒女子対抗ソフトボール大会に無駄な汗を流したその週の、土曜日。


 彼ら転生徒会メンバーとはまったく対照的な普通の女子生徒――つうひとみは、ささやかな趣味である休日のウィンドウショッピングを楽しむべく、電車で市街へくりだした。


 どこにでもある小さな街の、どこにでもある駅前通り。

 ペデストリアンデッキを少し早足で駆けおりたら、あとは気の向くままに辺りをぶらつく。


 飲食店、ミニシアター、雑貨屋、ブティック、書店、占い館……。 


 店先をあてもなく眺め歩くこの時間が彼女は好きだ。

 特に目的はないけれど。

 探し物が何かも、わからないけれど。

 それでもこうしていると、ウキウキした気分。

 だってわたしはつうひとみ。

 ごくごく平凡な、普通の女の子だ。


 ふと、おもちゃ屋さんのディスプレイが目にとまる。

 電気仕掛けの骸骨人形が、ドクロの頭をユラユラさせていて何だかおかしい。

 ついクスッときて、それから、のことを思い出す。

 ちょうどこの骨だらけの人形のように、白骨化した長髪の彼のことを。


 亡者属性の転生徒、もうはじめ

 中学のとき、わたしを好きだと言ってくれた、腐った目をした男の子。


『すっ、好きです。付きあってください!』

『ひっ……、い、命だけはとらないでください! うわあーん』


 どうしてだっけ? あの告白を断って、泣きながら逃げ出してしまったのは。

 彼が転生徒だから? 

 ううん、たぶんそうじゃない。

 びっくりしちゃった。

 ちょっと怖かった。

 きっと、ただそれだけ。


 だってわたしはつうひとみ。

 ごくごく平凡な、普通の女の子だ。

 誰かがわたしに恋をしてくれるなんて、思ってもみなかったのだ。

 ごめんね、もうくん。

 あの……、お友達デートからでも、その、いいかな?

 とかさ、ふふ。


 いつかそう言えたらいいな。

 せっかく高校も同じだもんね。


 フー、がらにもないこと考えちゃって、わたしいま顔真っ赤だよ絶対!

 ショーウィンドウに映る自分とにらめっこ。

 目鼻だちも普通、スタイルも普通、生まれも育ちも成績もオール普通。


 ……わたしの人生はきっと、どこまでもどこまでも普通なんだろうなあ。

 そのことに特に不満はないけれど、でも、少しだけこんなふうに思うこともあるの……。


 


 なんてね――。



『いいとも。その《願い》に、最高の加護をあたえよう』

 せつな、あやしげな声が彼女のうなじにりついた。


 通りを行く誰もそれに気付かなかった。

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