第34話 亡者の視点
髪が白骨化してると、意外と便利なことあるよね。
いちいちヘアワックスとかジェルとか使って、髪型をセットしなくていいし。
ってことは、毎朝わざわざ鏡に向かうたび、自分の腐った白目やら骨とただれた皮ばかりの体にギョッとする必要もなくて、最高じゃね?
どうも、亡者属性の転生徒、
いきなりだが、さて、なぜに俺はこんな1人実況モードで亡者属性エピソードを語ったりしているのか?
いや、それはだな……。
体育の授業中にありがちなちょっとしたこのフリータイムに無駄話できる友達がまったくいないせいであり、講堂からグラウンドへ降りていくコンクリート階段の端っこに座って孤独な脳内トークをくりひろげながら女子グループの長距離ジョギングでもさりげなく眺めるくらいしかすることがないからである。
あいかわらずクラスではボッチ。
複数クラス合同、男女競技別による体育の時間もボッチ。
亡者属性なおぞましい
望んでやまぬ普通の青春、いまだ訪れず。
ため息まじりにただよわせる視線の先――。
――あ……。
初恋が、目に飛び込んできた。
腐った俺の白目に映る、ごく普通の、ひとりの女子生徒。
800メートルトラックをのろのろと回る小グループの中に、彼女がいた。
ただしくは、俺のほろ苦い失恋相手だ。
そう、俺はすでに一度、彼女にフラれている。
……亡者属性の転生徒になり、四方八方から敬遠されたさんざんな中学時代。
生徒からも教師からも気味悪がられる日々の中で、それでも芽ばえた恋心。
意を決した俺の告白は、しかし彼女には死の宣告と聞きまちがえられ涙ながらに逃げ出されてしまったのだった。
『すっ、好きです。付きあってください!』
『ひっ……、い、命だけはとらないでください! うわあーん』
マジ泣きしながら駆け去っていく女子の後ろ姿を見ながら、俺はさとったものである。
――俺の青春、詰んだな、と。
フッ……。
そして高校生となった、いま。
運命のいたずらか、奇遇にも再び目の前をスローモーションで駆けていく、初恋の人。
彼女の名前は、
ごくごくノーマルな女子生徒。
顔だちも普通、スタイルも普通、しぐさも成績もオール普通。
だがそこがいい!
やっぱり、いい!
派手さはなく、かといって地味すぎもしないちょうどよい空気感をかもしだし、長めのボブヘアが肩先で揺れる。
まさに典型的理想的な、普通の女の子。
ああ、もしも
でへへ。
腐った白目で彼女に見惚れ、俺は自分の頬がだらしなくゆるむのを止められない。
まったく、それにひきかえ転生徒会ときたら勇者だのゴブリンだの魔王だのアマゾネスだの、ちっとも普通ではない属性の転生徒女子ばかりときたも
――――ューーーーン、ゴツッ!
っ⁉
いきなり、空から降ってきた何かが俺のこめかみを直撃し、足もとに転がった。
……競技用のソフトボール、か?
青い火花を放電させてそいつがパンッと破裂する。
チカチカする腐った白目をこらし、たんこぶのできたこめかみをおさえながら俺はサブグラウンドに向かって思わず怒鳴った。
「あっ、危ないでしょーが!」
「いやー、ソーリーソーリー。アッハハ、ボクとしたことが、つい手もとがくるっちゃったよん」
こちらにグローブをひらひらと振るのは、すっかりおなじみ、
体操着モードでも変わらぬ、青髪碧眼青マント(おでこに《勇》の紋章入り)。
自ら勇者を名乗る
「まーでも、
「いかにも、俺には陰キャ属性のスキル《無感覚》が……って違うわ! 亡者属性のスキル《無痛覚》だ。たしかに痛みは感じないけど、物理ダメージは負うんだよ! ほら、さっきボールが直撃したとこ、たんこぶになっちまっただろーが!」
「ああもうウゼーな、いつまでそんな陰キャの相手してんだ、ユーシヤ。あーしとの勝負を忘れてんじゃねーぞ。さあ、こい!」
バッターボックスに立つ赤髪ヤンギャルもとい
名指しされたユーシヤも、こたえるようにセットポジションへ。
「フフッ、忘れちゃいないさ、
♢
さあはじまりました、転生徒女子対抗ソフトボール大会。
実況解説は私、亡者属性の転生徒、
爽やかな快晴の下、球児たちの汗がきらめくサブグラウンド。
ピッチャーズサークルには、エース投手、勇者属性の
勇気の光が
バッテリーを組むのはゴブリン属性の
ッケケと巧みにサインを出す、小柄な頭脳派捕手。
ただ、緑肌の表情を隠すキャッチャーマスクもプロテクターもぶかぶかでまったくサイズがあっておりません。心配です。
対するバッターボックスには、アマゾネス属性の
好敵手ユーシヤを前に気合十分。
根性が違いますね。
なぜ、2年生がここにいるのでしょうか?
赤髪の不良だからでしょうか?
スタンドからは
おお、
転生徒でありながら、一般男子生徒たちの視線さえクギ付けに。
まさに魔王の所業であります。
「「「チッ」」」
いっせいに舌打ちするユーシヤ、
おっと、これはいけません。
はやくも女どうし、醜い嫉妬の
凡乳貧乳に発言権はありません。
いや、だからなぜ2年生がここにいるのでしょうか?
――響きわたるサイレンとともに、いよいよプレイボールです。
ユーシヤ投手、大きく振りかぶって第1球、投げた!
「いっけぇぇぇ、
「その青い
カキーーーン。
打った!
ボールは高ーくあがって伸びる伸びる伸びる、さらに伸びて――。
パンッ。
ああっと、打球が青天で破裂、ここであえなくゲームセットです。
……アホくさ。
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