第31話 モブ、あるいは悪魔の視点Ⅳ
(……ど、どうしよう。ぼ、僕はなんてことをし、してしまったんだ……)
デーモン属性の転生徒、
忘れ
そうすれば彼女の脳に空きが生まれ、テスト勉強を助けてあげられる。
ただそれだけのはずだったのに。
最後の最後で、我慢ができなくなった。
もっと記憶を喰いたくて、たまらなくなった。
わき起こる衝動を抑えられず。
えたいの知れない
あげく、ほかの転生徒たち全員の頭にも手をかざし、試験範囲の新鮮な記憶をむさぼり喰らった。
満腹感とともにハッと我にかえったときはもう遅かった。
自分がしでかしてしまったことに
「ね、ねえ、魔導書グリーモザ! ぼ、僕はいったい、ど、どうなってしまったんだい?」
そして、薄暗いその部屋で。
壁際の本棚に飾られた1冊の分厚い書物――魔導書グリーモザが、脳へ直接響くような黒い声で
『そりゃお前、忘れ
魔導書の表紙に浮かぶ
(そ、そんな……。こ、このままじゃ僕は、手あたりしだいに人々の記憶を喰らいつくしてしまう。あ、悪魔に、忘れインプになってしまう……。どうしよう、ど、どうすればいい――)
♢
とり乱し、うろたえて。
わき続ける飢餓感と絶望感にめまいを覚えながら、
それは、学校の図書室だった。
これらはいわば、人間の記憶そのものにほかならないはずだ。
誰かの記憶を奪い喰らってしまう前に、書物に宿る記憶を食べて飢えを満たせばいい。
あせる意識のなかで必死にそう考えた。
本に手をかざすと、人の頭に手をかざすときと同じように、そこに眠る記憶を喰らうことができた。
記憶は霧状のすじとなって彼の手の中へ、そして身内へと流れ込んでくる。
それはまさに、喰らうという表現がピッタリな感覚だ。
胃が熱くなり、わずかにだが腹が満たされていく気がする。
でも、もう足りない。
記憶の霧を喰らうのももどかしく、
魔導書グリーモザが言っていた通り、書物に眠る古い記憶は新鮮な記憶とは比べ物にならないほどマズかった。
あまりにマズくて、何度も吐きそうになる。
でも食べずにはいられない。
「う、うぐっ、マズイよう、くっ、苦しいよう。でも、記憶が喰いたくてたまらないよう――」
涙と吐き気にむせ返りながら、むしり取ったページを口に押し込んでいく。
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
いつのまにか、彼の存在に気付いた女子生徒が図書室の外まで響きわたる大きな悲鳴をあげたが、その姿はもう
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