第27話 モブ、あるいは悪魔の視点Ⅱ

「……というわけなんだ。い、かいユーシヤさんのテスト勉強がうまくいくように、ぼ、僕は力になりたい。何か……、何かいい方法はないかい、魔導書グリーモザ?」


 カーテンの閉め切られた、薄暗い高校生男子の自室。

 壁際の本棚に飾られているのは、1冊の分厚い魔導書――。


 先日の「いせこん」撮影帰りに突然手に入れたその魔導書に、もんは恐るおそる、しかし決意したように問いかけた。


「い、かいユーシヤさんは、これまでのど、どんなアイドルとも違う、ぼ、僕の運命の人、なんだ。き、君が言うように僕がデーモン属性の転生徒になったんなら、ス、スキルを使って彼女を助けたい。ねえ、で、できるかい?」


 その問いかけに、まるでもんの脳に直接響くような黒い声で、魔導書グリーモザはこともなげにたか笑った。


『できるに決まってんだろ、もん。デーモン属性の転生徒になったお前のスキルは、《悪魔ひょう》。この魔導書グリーモザにっているいかなる悪魔をも、おまえはその体にひょうさせることが可能だといったはずだぜ、ヒャッヒャッヒャ』 


「じゃ、じゃあさ、その《悪魔ひょう》ってやつをやらせてくれよ。ど、どんな悪魔がいいのかな?」


 魔導書の表紙に浮かぶろくぼうせいが、わくてきにほほ笑んだように見えた。


『そりゃお前、そういうことなら《忘れ妖魔インプ》で決まりだぜ。忘れインプってのは一種の上位睡魔でな、睡眠魔法で人を眠らせているあいだにその記憶を喰っちまうのよ。お前が忘れインプを自分にひょうさせて、ぞっこん惚れてるそのかいユーシヤとかいう娘を眠らせてだな、そいつのテスト勉強以外の余分な記憶を喰ってやればいい。そうすりゃその娘の脳にたっぷり空きが出て、テスト勉強とやらもすこぶるはかどることうけあいだぜ、ヒャッヒャッヒャ』


「……そ、そうか。うん、わかったよ」


 ゴールデンウイーク明け初日からかいユーシヤにストーカーのごとくはりついているうちに、偶然にも得た転生徒会のテスト対策勉強会の情報。

 転生徒会室のドアに耳を押しあてて聞いたところでは、どうやらかいユーシヤは数学が苦手で、第1学期中間考査を前に弱点克服に苦労しているらしい。


 もんにとっては、想いを寄せるあのかいユーシヤにもしかしたら自分が貢献できるかもしれないチャンスの知らせであった。

 この好機を、みすみす逃したくはない。


「さあ、僕に、わ、忘れインプをひょうさせてくれ!」


『よしきた、366ページ。いけ、忘れインプ――憑依ポゼッション!』


 魔導書から放たれる、黒い光を浴びて。

 するともんの腰あたりから、にわかにかぎのとがったしっが生えはじめる。


 勇者属性少女に恋したモブ少年が、そしておや、悪魔に変わって……。

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