第23話 いせコン!! vol.3

 ――そして、いせコン当日がやってきた。


 さかいではゴールデンウイークこうれいの、地域おこしもかねた一大イベントだ。

 ミスさかい・水着美少女コンテスト、通称いせコン。


 会場となるのはここ、さかいレジャーランド。そのドーム内プールに用意された特設ステージだ。

 ゆとりあるプールサイド・スペースに、周囲よりひときわ高く真っ白なステージ台。これからこの壇上に、次々と水着少女が登場して一芸をアピールする。


 審査は水着の着こなしと容姿はもちろん、一芸の内容も加味して総合的に採点されるとのこと。

 グランプリ副賞は、なんと賞金30万円。


 にぎわう観覧席のギャラリーにまじる俺――もうにできることなど、もはやかぎられている。

 ここまでくれば運を天に任せ、我ら転生徒会の女子メンバーたちにありったけの声援を送るのみ。


 やむをえぬ事情により参加となったこのイベントだが、場の空気というのはバカにならないものだ。

 すっかり手に汗握っている俺の青春はいったいどこへ向かおうとしているのか。


『会場の皆様、それでは今年も大いに盛り上がっていきましょう! ミスさかい・水着美少女コンテスト――いせコン、いよいよ開幕です!』


 午前10時きっかり。

 司会者のアナウンスと盛大な音響効果とともに、ついにいせコンは開幕した。


 エントリーナンバー順にかわるがわる、水着美少女がステージ上に現れて一芸をろうしていく。


 それなりに名の知れたイベントだけあって、さすがに出場者のレベルも高い。

 ミス○○校という肩書を持った者や、すでに地下アイドルとして活動している少女たちが、華やかな水着姿で会場を沸かせる。

 一芸の内容はダンスや歌唱、趣味の披露などさまざまだが、やはりそれぞれに華がある。


 こんなたちと、はたして転生徒会うちの女子たちは対等にはりあえるのだろうか。

 そういえばあいつらが一芸で何をおするのか、俺はさっぱり聞かされていないんだが。

 いちまつの不安をよそに、ついにその時がやって来る。


『では、エントリーナンバー14番。りんさん、ステージへどうぞ!』


 転生徒女子の先陣を切るのは、緑肌飛び級お子様教師――ゴブリン属性のりん先生だ。

 ジュニアサイズチックなワンピース水着を身につけ、ステージ中央のスタンドマイクの前に立つ。

 マイクの位置が高い。


 緊張のせいか、顔色もかなり悪い。

 いや、鼻と耳と唇はもともと緑肌だ。きっと大丈夫なはず。

 懸命に背伸びするりん先生の声が、マイクを通して会場に響きわたった。


「ッケケ、ケケッケケケ、ケケケッケケ」


 ガチガチに緊張していた。


 予期せぬ転生徒女子の登場と、謎の「ケ」の連続音にどよめく会場から逃げるようにして、りんはステージから消えた。


『……で、では、エントリーナンバー15番。あんさん、ステージへどうぞ!』

 

 次なる転生徒女子は、つの付きのお茶屋娘――魔王属性のあんだ。

 フリルのあしらわれたビスチェタイプの水着で登場。

 転生徒会唯一といっていい豊満たわわなその胸もとに、観覧席がにわかに沸き立つ。


 しかし彼女が一芸としてお抹茶をてはじめると、その仕上がりに会場の誰もが絶句。

 声にならない悲鳴をよそに、まっちゃわんに両手を添えるあんの一言が、マイクを通して会場中を青ざめさせた。


「さあ、おあがりやす♡」


 沈黙するギャラリーにいまいちしゃくぜんとしない様子で、おっとりはんなり天然なあん先輩はステージを降りる。 


『え……えー、続いて、エントリーナンバー16番。あますみれさん。どうぞステージへ!』


 転生徒女子が放つ三の矢は、いくさ乙女の身体を持つ赤髪ヤンギャル――アマゾネス属性のあますみれ。

 引き締まった褐色のたいに、首すじにはつた模様のタトゥー。

 今日はスポーティーなフィットネス水着で登場だ。


 なぎなたを肩に弓を背に、一芸披露ではそれらの武具をたくみにあやつって型を見せつけると、スタンドマイクに向かって吠えた。


な! いつなんどき、誰の挑戦でも受ける!」


 武芸脳キン女子の、中2病感マンサイなドヤ顔。


 水着美少女コンテストにあるまじき物騒な対戦相手募集告知に、まさか観覧席から名乗りをあげる者がいるはずもなく、拍子抜けしたようになぎなたを素振りしながらあますみれもまたステージから消えた。


 まずい。会場がどんどん微妙な空気になっていく……。


『……ゴ、ゴホン。それでは次、エントリーナンバー17番。かいユーシヤさん、――さあ、ステージへどうぞ!』


 ここにきて、いよいよ転生徒女子の真打ち登場。

 青髪碧眼青マント美少女(おでこに《勇》の紋章入り)、聖剣使いの《勇者》属性――かいユーシヤ。


 青マントの下には、はつらつとしたオーシャンブルーが印象的な、短いパレオ付きのビキニを身につけて。

 ひらめくマントからあらわになる肌が、みずみずしくもまぶしい。


 一芸披露はもちろん、あの決めゼリフ「聖なるつるぎは勇気の光」とともにほとばしらせる《聖剣》だろう。

 ふうどうどうとスタンドマイクの前に立ち、自らを勇者と名乗るゆうかんぼうなビッグマウスが声をはなった。


「――こんにちは、かいユーシヤです。かい学園の転生徒会から来ました。ボクは勇者属性の転生徒、スキルは《聖剣》。ところで、どんな一芸よりも誇りたいものが、ボクにはあります――」


 ばやな転生徒女子の登場にざわめく会場。

 ユーシヤがいったい何を語ろうとしているのか予想がつかず、俺は観覧席からその表情を遠く眺める。


「――ボクが誇れるもの、それは、かけがえのない仲間です――」


 凛としたよく通るその声が、しだいに周囲のけんそうをしずめ、ギャラリーの耳を自然とひきつけていく。


「――ボクの前に続けて登場してくれた3人の出場者は、いずれも転生徒会のメンバーです。残りのひとりも、きっといま観覧席から応援してくれています――」


 一瞬だけ、ユーシヤがチラとこちらに視線をよこしたような気がした。


「――転生徒会のみんなは、かけがえのない仲間です。最高のパーティーです。……ボクは勇者でありたい、いつもそう胸に誓っています。でもボクひとりの勇気は、時にはとても小さい――」


 かすかにうつむいたすぐ後で、まっすぐに背すじを伸ばしてユーシヤが顔をあげた。

 明るく澄んだ声が、続ける。


「――それでもボクには、仲間がいます。やっと出会えた、かけがえのない仲間が。足りない勇気は、きっと彼女や彼が分けてくれます。みんなと一緒だからこそ、ボクはきっと、これからずっと、勇気を持てる――勇者になれる気がするんです。だから最後にもう一度――。転生徒会は、ボクの最高のパーティーです!」


 予想外のスピーチは、そこで終わって。

 会場全体がしばしあっけにとられて。

 そして誰からともなく、まばらな拍手がパラパラ起こった。

 ささやかなかっさい

 だが、それだけで終わるほど、世間は単純でもやさしくもないらしい。


 転生徒そのものに偏見を持つ一部の人たちもまた、観覧席から声をあげはじめる。


『ひっこめ、転生徒!』

『この変わり者が! 目ざわりなのよ』

『わけのわからん異世界キャラ属性どもが、イベントをけがすな!』


 しだいに場の空気は荒れはじめ、ステージに物を投げ込むやからまで出だした、まさにそのとき。


 なんでだろうな? 気付けば俺はもう、かいユーシヤの盾となるべくステージ上に突っ立っていた。


「も、もう! あぶないよ、降りなよ」


 背中でユーシヤの声を聞きながら、俺は投げつけられる空き缶だのペットボトルだのなんのかのを浴びてなお立ちつくした。

 どんな勇敢なスピーチも吐けやしない。

 ただ一方で、何を投げつけられようが、もう

 それが俺。

 転生徒会の残る1人。

 無痛覚というスキルを持つ、亡者属性のもうはじめだ。



        ♢



 司会者さんやイベントスタッフさんが機転をきかせ場をどうにかとりなしてくれたおかげで、その後いせコンはとどこおりなく終了した。


 残念ながら我が転生徒会のメンバーが受賞にいたることはなかったが、それでも妙な達成感が俺たちみんなの中にあったことをあえて否定はすまい。


 こっそり応援に来ていたふうぞう学園長や調理師主任のフーカちゃんが、わざわざ声をかけてくれたりもした。


 かいユーシヤにいたっては、観覧席にいたというかい学園のとある一般男子生徒から、イベント終了後に写真撮影と握手をせがまれすらしたそうである。

 なんでもその男子生徒は、「かっ、感動しました。ずっと応援します! ずっと推します!」とやらさけんで去っていったそうな。

 奇特なやつもいるものだ……。


 まあなんにせよ、いせコンへの代理出場枠穴埋めという一大クエストはこれで無事達成ということにしておきたい。


 そうでもなければ、痛みを感じないとはいえさんざん物を投げつけられて傷だらけのこのもうはじめ君が、ちっとも浮かばれんからな、ははは。 


 まったく、こんな騒動はもうこりごりだね……。

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