第22話 いせコン!! vol.2

 絶対に断れない理由が、そこにはある――。


 ミスさかい・水着美少女コンテスト、通称「いせコン」へ、やむをえぬ事情によりかりだされることとなった我ら転生徒会。

 取り急ぎ、コンテスト出場にあたっては転生徒女子メンバーみんなの水着の手配が急務となり……。


 放課後のチャイムとともにかい学園を飛びだして、りの複合型ショッピングモールへとやってきた。


 男の俺、もうはてんで知らなかったのだが、大型のショッピングモールともなるとサマーシーズンを待たずして女子が水着を購入できるショップやコーナーはそれなりに点在しているものらしいのである。

 転生徒会パーティーをひきいるかいユーシヤは、インフォメーション・スペースに掲示された館内マップにチラと目を通すが早いか、青のマントをさっそうとはためかせた。


「フッ……。さあ、ナイスな水着がボクらを呼んでいるぜ。ガンガンいくよん!」


 りん先生、あん先輩、あますみれもそろって同行。


「ッケケ、私は顧問でケスし、別に水着は必要ないのでケスが……」

「なにゆうてはりますのん、りん先生。こない可愛いらしいのに、もったいないわあ。だいじょうぶ、うちがええ水着えらんだげますよって、一緒に行きましょ」

「あーしはやっぱあれだな、実戦重視で可動域が広い戦闘服として優秀そうなやつを――」


 それぞれの熱き思いを胸に、いせコン出場のためのステージ衣装となる水着の探索クエストを開始。

 いちおう俺には、男子目線でそれぞれの水着セレクトにささやかな意見を申し述べるという役割があたえられている。


 ――まずは1店舗目、ハワイ発のリゾート感あふれる女子用水着専門ショップ。


「このお店、マント付きの水着がいっぱいあるよ。アッハハ、実にボク好みだな」


かいユーシヤ、それはパレオというものでケス。そのようにマントがわりに使えなくもないでケスが、水着の上から腰に巻くのが一般的なはず」


「うふふ。ユーシヤはんなら、思いきってもっと短めのパレオのほうがええんとちがいます? 女の子やもん、ほら、このオーシャンブルーのビキニセット、やっぱりこのくらいは攻めはりませんと」


「同感だな。大事なのは、可動域だ! あーしのライバルを名乗る勇者なら、実戦重視で可動域を優先しろ!」


「――よし、みんながそう言うなら、ボクそれを着てみるよ。好きな色だしさ」


 ゆうかんぼうな即決で、水着を手にとり試着室へと入っていくかいユーシヤ。


「ッケケ、では後は頼んだでケス、もう

「女の子が大事な一歩を踏み出すときは、やっぱり殿方のひと言が決め手になるもんどす。サイズはうちがしっかり見ときましたから、後はよろしゅうたのんますね、もうはん」

「よっしゃ、あーしらの水着も探しに行こうぜ。たしか2階にイカしたスポーツショップがあるんだったよな――」


「ちょ⁉ なんで俺だけ残されるんだっ」


 いいからいいから、という風に強引にみんなに押し切られ、どういうわけか俺は1人でユーシヤの着替えを待つハメに……。

 何やら申しあわせでもしていた様子で、りん先生、あん先輩、あますみれはエスカレーターで上の階へと消えていった。


 おいおいおいおい。

 ここは、女子専用の水着ショップ。

 試着室の前に、高校生男子が1人。


 想定外にして完全アウェイのシチュエーションに、居心地がいいはずもない。

 ソワソワと浮足立つ俺を、レジ係の女性店員さんが遠くから見てくすりと笑っている。

 すみません、いますぐ帰ります!

 冷や汗まじりのおじぎに身を折る俺を知ってか知らずか、スッと試着室のカーテンが開いた――。


「ジャジャーン! フッ……、どうだいみんな、ボクのビキニ姿は? って、あれっ、なっ⁉ なんでもうだけ⁉」

「おっ、俺にかれても知らん! ――あ」


 振りかえった眼前に立つのは、水着姿のかいユーシヤ。

 はつらつとしたオーシャンブルーが印象的な、短いパレオ付きのビキニを身につけて。

 あらわになった肌がみずみずしくもまぶしく、俺は何だか直視していられない。


 おもわず腐った白目であさっての方向を見やると、そばからいつにもなく妙にしおらしい雰囲気でユーシヤがいてきた。


「……その、ど、どうかな?」

「よ、よくわからんが、いいんじゃないか?」


 わけもなくドギマギしてしまう俺たち。なんなんだ、この感じは。


「おーい、2人ともー! そっちの調子は、どんなもんだ―? そろそろあーしらの水着も見にきてくれよー!」

 微妙な空気を打ち消すように、吹き抜けの2階フロアからあますみれの荒ぶる声が降ってきて、俺もユーシヤもやけにホッとした気分でため息を吐いた。


「どうやら呼ばれてるみたいだし、さっさとそれ買っちまって上に行こうぜ、ユーシヤ」

「う、うん、……そうしよう!」


 気を取り直したようにシャッと試着室のカーテンを閉め、ユーシヤがふたたび着替えはじめる。

 いそいそという感じの衣擦れの音。


 俺は変な汗でびっしょりになりながら、女子専用の水着ショップになんぞもう2度と立ち入るまいと固く心に誓うのだった。


 今回のクエスト、かなり厳しいかもしれない。

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