第17話 幕間 《英雄の書・前編》
昔々、あるところに、フゾという名のドワーフがおりました。
山あいの村で
彼は鉱夫でもありましたので、剣や鎧の素材になる鉱物を求めてはしょっちゅう岩山に登っていました。
山中では恐ろしいモンスターに遭遇することもありましたが、腕っぷしの強いドワーフ族の彼には、さして問題でもありません。
その日もちょうど、そんな鉱物採掘に汗を流しているうちにすっかり夜が近くなり、帰り支度をはじめたところでした。
すると、岩陰から妙な光が発せられていることに気付いたのです。
あやしく思ったフゾが近づいてみると、なんと岩場の陰で1人の青年が気を失い倒れているではありませんか。
青年はどうやら、年若い
ただ、ヒュームにしては珍しく、暗がりすら照らすかのような青い髪色をしていました。
身なりもこの辺りでは見なれない
「おい、大丈夫か、しっかりせい」
「……う……」
さいわい、命に別状はない様子。
しかし夜の岩山にこのまま捨て置けば、青年はあっというまにモンスターに喰われてしまうでしょう。
「ええい、面倒だわい」
仕方なく、ドワーフのフゾはそのヒュームを担いで村まで連れ帰ることにしたのでした。
フゾの介抱によって3日後に目を覚ますと、ヒュームの青年はすっかり元気になり、身の上を語りだしました。
それはフゾにとって、にわかには信じがたい話でした。
青年の名は、ヒデオ。
この
あちらの世界で、ヒデオがとある山中を歩いていたときのこと。
稲光とともに突然落ちてきた雷に打たれて、彼は死にかけ……。
すると、その魂を精霊王により召喚され……。
そして、闇の魔王討伐を担う勇者としてこちらへ転生したのだ、と。
魔王にさらわれしヒュームの姫君――マーシヤ姫を救い出し、闇に支配されたこの世界に勇気の光をもたらさんがため。
青い髪と青のマントは、精霊王の加護の
――いざ共に、魔王を打倒する冒険の旅へ出かけよう!
勇者を名乗るヒデオの誘いにフゾは面食らいましたが、むげに断れば精霊王に何をされるか知れたものではありません。
精霊といえば、いにしえより生き続ける謎多き存在。
姿かたちもさだかならず、どんな妖精よりもご立派で考えの読めぬ
その精霊たちの王がよこした勇者とあっては、下手なあつかいをするわけにもいくまい。
半信半疑ながら、フゾはしぶしぶ、勇者ヒデオについていくことにしたのでした。
♢
冒険がはじまると、ヒデオが本当に勇者であることはすぐにはっきりしました。
立ちはだかる魔物を前に、彼の左手から
聖剣。
勇気が光り輝いて剣のかたちをなすという、勇者固有の最強武器。
そのひと振りで、襲いくる強敵を勇者ヒデオはバッタバッタと斬り倒していきました。
青いマントを
相棒となったフゾも、斧やハンマーを
旅路は順調そのもの。
途中立ち寄ったエルフの里では、ハイエルフの女戦士が新たな仲間に。
亜麻色のショートヘア、
「魔王討伐? 姫の救出? ダイジョブダイジョブ。やー、全然イケるっしょ。なんたってこのフーカちゃんが、力をお貸ししちゃおうってんだからさ、ニャッハハー」
その聡明そうな見た目とは真逆の軽々しい口ぶりが素なのか演技なのか、はたからは容易に判断できません。
フゾとしてはどうにも苦手なタイプの女でしたが、心強い味方であることは事実でした。
勇者ヒデオ、フゾ、フーカの3人パーティーはその後いくつもの試練を協力して乗り越え、魔王城に到達。
ついには激しい戦闘の末、勇者ヒデオが放った聖剣の青い剣閃で見事に闇の魔王を打ち倒しました。
かくして、囚われの身であった麗しいヒュームの姫君――マーシヤ姫は無事救い出されたのです。
勇者の腕の中でほほ笑む、金髪碧眼雪肌のうら若き姫君。
めでたしめでたし。
精霊王が転生させた勇者ヒデオの活躍を、あるいは神々さえも大いに楽しんだことでしょう。
勇者ヒデオが、神々の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます