第10話 大手橋の決闘!!

「いざ、勝負!」


 鋭い声のあがった方向。

 公道側に面した橋の入り口、その薄暗がりから。


 何者かが、木板を駆ける足音とともに猛然と迫ってきた。

 まばたきひとつの暇もなく。

 とっさに構えたユーシヤの聖剣が照らしだしたもの――それは、槍、いや、薙刀なぎなたを振りかざして襲いくる真っ赤な髪のヤンギャルだった。


 グビュンッ。


 急襲。

 しなるなぎなたさきが、聖剣を打って火花を散らす。

 一気せいな追撃の嵐。


「キェェェェェェーイ」


 先革さきがわを巻いてすら鋭利なながものは、なおも二の手、三の手を打ってくり出される。

 奇声に続けて、赤髪ヤンギャルが鬼の形相で言葉を吐いた。


「逃がさねえぞっ、かいユーシヤ! 今夜テメーを倒せば千人斬り。1人でも多く倒して、あーしはもっと強くなるんだ。ダリャッ!」


 四白眼気味の鋭い目つき。

 引き締まったかっしょくおもち。

 首すじにはつた模様のタトゥー。


 背たけはユーシヤよりもやや高く、俺とそう変わらないか。

 きつくブリーチされたような真っ赤なひっつめ髪が、ささくれたままに暴れまわる。

 身なりはユーシヤと同じかい学園女子の制服だが、ブレザーごと切りっぱなされたブラウスの肩口からは、筋肉質な細腕が伸びて一向に攻撃を止めない。

 恐ろしいまでに素早く、かつ的確にして強烈な攻め。


「――アッハハ、やるじゃないか」


 対するユーシヤはというと、


「クー、っくー! だけど、ボクはどこへも逃げやしないぜ、血気盛んなヤンギャルちゃん?」

 勇気あふれる笑みを浮かべ、さっそうと聖剣をひるがえし応戦してみせる。


「ああん? いい度胸だ。お望み通りシメてやん――っよ!」

 荒ぶる赤髪ヤンギャルが、さらなるマシマシとうの勢いでユーシヤへと斬り込んだ。


「ウルァッ」

「はっ」

「デヤッ」

「アッハハ、なんのっ」


 素人しろうと目に見ても、武術的な腕前は赤髪ヤンギャルのほうが圧倒的に勝る。

 しかし何度なぎなたによる強襲を受け止めても、ユーシヤの聖剣は退かない。

 ひるまない。

 青く揺るぎないその輝きが、ひらめくたびに例の言葉を実感に変える。


 そう――、聖なるつるぎは勇気の光。


 むしろ効果のない攻撃を延々とくり返させられるうちに、少しづつ相手の顔にいらだちと焦りがにじみはじめた。


「このっ、ウゼーんだよっ、ッリャァァァ!」

 気の乱れからか大きく空振ったせつな、赤髪ヤンギャルの体勢が派手に崩れる。

 反撃に転じる、絶好機の到来。

 われ知らず、俺はさけんだ。


「チャンスだぞ、ユーシヤ!」


「チクショウッ、ぬかった」


「フッ、ボクのターン。もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ほとばしる青い聖剣の一閃が、勝負を決める!

 ――はずが。


 ビュオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン。


「「「⁉」」」


 いちじんの風がおほりから吹き上がり――、


「ふぇっ? ちょ、イヤンッ⁉」

「フンッ」


 その風は、けんげきのさなかにあった少女2人のスカートを盛大にまくしあげた。

 決闘の立会人たる俺の腐った白目に映じたもの、それは――。 

 

 淡いブルーのリボン付きパンツ、と。

 赤い無骨なスポーツショーツ、と。


 前者、ユーシヤはスカートのすそを必死におさえる。

 動揺して勇気がひるんだせいか、聖剣は霧消。

 思いもかけぬラッキースケベな展開が、例の言葉を実感に変える。


 そう――、ありがとう、パンチラ。


 って、ふざけてる場合じゃねえ。

 もはや丸腰同然の勇者に、猛然と迫る絶対不可避ななぎなたさき

 スポーツショーツは見えてもいいパンツ。

 赤髪ヤンギャルが勝機を確信して吠えた。

「こいつでトドメだっ――――? なんだ? また何か来る。っ⁉」


 ――ヒュンッ――。

  

 瞬間。

 今度はおおもんの高みあたりからか、鋭く風を切る何かが放たれ、赤髪ヤンギャルの立つ足もとへ突き刺さった。


 矢、だ。


 いっ

 さらに、一矢、一矢、一矢。


「チィッ、なんなんだよ、クソッ」

 身を退き、いなし、バク転さえ鮮やかに決めて回避を続ける赤い獲物を、しかしなおも放たれる無数の矢があっさりと追い詰める。

 ついには完全にステップを狂わされ、獲物がざまに尻もちをついた。


 その股間スレスレ、スカートの布地を地面に縫いつける正確無比な、一矢。

 

 無言のままにそう告げるかのように。

 少なくとも、さっきまで威勢よく吠えたてていた赤髪ヤンギャルを腰砕けにさせてあまりある、かく


『――ニャッハハー、さすがはフーカちゃん、現役バリバリのお手前じゃん? 、さーんっ!』

 矢の来た上方、おおもんかわら屋根かららんかんを器用に跳び渡り、かけ声とともにヒョイと降り立った人物は、なんと。


 食堂のオネーさん――。

 え、ふうさん?



『ノンノン、フーカちゃんと呼びなさい、フーカちゃんと』

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