第5話 魔王城でお茶会を!!
「――あの……、お客はんどすか? おいでやす……」
はんなり、と。
その人は、闇の晴れた奥間から顔をのぞかせ、手まねきした。
十畳ほどの茶室。
俺たち転生徒会一行を、
着物の上からでもわかるくらい豊満な胸もともさることながら、何とも目立つのは、その黒髪のおかっぱボブを押し分けるようにして、両耳の上あたりからニョキンニョキンと生えた紫金色の
「へえ~、そんなら、みなさん本当に転生徒はんなんどすなあ。まあいうても、うちもやけど、うふふ」
おっとり笑うそのさまはやわらかで可愛らしく、下がり
「お
やはりというべきか、立派な
ユーシヤの
青のマントがいちいちはためいて、
ワビサビの境地ともいうべき茶室で、青髪碧眼青マント(おでこに《勇》の紋章入り)の聖なる勇者属性少女が魔王属性の
だいたい、俺も
他人のことが言えた義理ではない。
でもこのままだと忘れそうだからそっと自分にささやこう。
俺が欲しいのは、普通の青春だ(泣)!
「えらいご迷惑かけてしもて、かんにんえ。けど、何でこないなことになってんのやら、うちにもわかれへんのどす。体調不良で次々と部員はんが辞めてからは、ひとりきりの茶道部いうのもさみしゅうてねえ、情けないんやけどもうめそめそ泣いてばっかりで……あら! 話に夢中でお茶お出しすんのがまだやったわあ。待ってておくれやす」
所作の1つひとつが奥ゆかしく、かつ華やかな
会話するうちにわかったのだが、彼女はその筋で名の知れた
京都にある総本家の伝統を
テレビで見た
ともあれ、これは美味しいお抹茶が期待できるに違いない。
茶道部食中毒事件なんてのは、やっぱり転生徒をネタにした趣味の悪いデマだったんじゃないか。
当の
「一度でええから、ほんまに美味しいお抹茶が
という願いを抱いて、茶道の
なんとも
♢
――数分後。
「「「……………………!」」」
各々の膝上に置かれた
「ひっ……」
耐えきれず情けない悲鳴をもらす者さえいる。
だが無理もないだろう。
いま俺たちが
奇怪なダークトーンの湯気すら立ちのぼっている。
いったい魔王でもなければ、誰にこんな即死効果発動必至みたいな暗黒の液体を生みだせようか。
屋外にまでただよっていた湯気の正体は、まさにこれだったのだ。
「ささ、遠慮せんとおあがりやす」
ニコニコと無邪気にそううながしてくる、お茶屋の娘(魔王属性)。
……残念ながら、
おまけにどうやら本人に悪意はなく、自覚もなく、その可愛らしい笑顔には一点のくもりもないときている。
(ね、ねえ、
お前っ……!
ていよく自分だけ助かろうと、冷や汗をたらしながら小声でうったえてくるユーシヤ。
(……ッケケ……これは……魔王属性のスキル、《
2人そろって、その体はすっかり恐怖にかたまったままだ。
このお抹茶、行動不能効果もあるのかよ‼
「(ニコッ)おあがりやす」
笑顔が可愛い⁉
くっ、仕方あるまい。
男子たるもの、やらねばならんときがある。
俺は腹を決めた。
「な、なあみんな、俺がお抹茶に目がないってこと、前に言わなかったっけか? よかったらなんだが、みんなの分も俺にゆずっ……」
ザザッ‼
いっせいに差しだされる、
お前ら行動不能じゃなかったのか!
――いいだろう、こうなったらやけだ。
それになんのかんのと言ったって、しょせんはたかがお抹茶だもんな。
飲みほしてやるさ。
グイッ。
ググイッ。
ん? なんだ、別に見た目ほどたいしたことなグガゴボゲベブシュッ⁉
♢
(…………――――はっ⁉)
どれくらいの時がたったのだろう?
俺はまだ……生きている……のか?
毒々しい
数段前と変わらぬ平穏な状況。
まるで時間が巻き戻ったかのようだ。
その奇妙さに俺は、思わず自分の境遇をループものラノベと重ねあわせる。
まさかこれは、あえなく絶命したはずの主人公が特定の時空間へ舞い戻って復活し、己の生死と世界の命運をかけて奮闘するというあの超絶燃え展開ではないのか?
おお、亡者属性の俺だからこその、さらなるスキル覚醒がついにやってきたとか?
――いや、しかし待て、確実に時は流れている。
その証拠に、俺の膝上にはカラになった
あえなく意識を失いこそしたが、うむやはり、俺はすべてを飲みほしたのだ。
よくやった、俺。
「あ。気が付いたのかい、
「さあ、
「いえいえうちこそ、そない喜んでくれはるなんて嬉しいかぎりどす」
…………。
おい。
かくして、我ら転生徒会は、早くも
健全なる高校生男子諸君なら一度は思い描くであろう「放課後は毎日、可愛い美少女のいれてくれるお茶で優雅にティータイム♪」という夢を、これ以降、大変に不本意なかたちで俺が
いつか俺の墓にはこう刻まれるだろう。
……夢にその身を捧げた男、と。
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