第4話 出向!! 転生徒会

 昨日の一件はただの冗談だったに違いないと期待していたのだが、転生徒会はちゃんと実在した。


 翌日の放課後、りちにも部室棟へおもむき、外廊下の片隅に立ちつくした俺はその現実を受け入れざるをえなかった。

 なにしろ空き倉庫の室名札には、堂々とこうある。


『転生徒会室』


 いや、こんなもん昨日はなかっただろ。

 ははは、と乾いた笑いを飲み込んでいると、すでに正面ドアの向こうは何やら騒がしく、例の2人のものとおぼしき話し声がにぎやかである。 

 まあ何にしても、来てしまったものは仕方あるまい。

 ひとまずノブに手をかけようと……するより先に、威勢よくドアは開き――。


「いま、ボクらの冒険がはじまる! さっそく転生徒会の出番だ。さあ、もうもついてきて!」

「ッケケ。まずは第1クエスト。かいユーシヤのお手並み拝見といくでケス」


 ドタバタといずこかへしゅったつしようとするユーシヤとりん先生の勢いに巻き込まれ、やれやれと後を追うしかない俺なのだった。

 冒険への旅立ちである。



        ♢



 はてさて、やってきたのはかい学園の事務棟わき。

 いわゆる離れのような、こじんまりとしたひらの前だ。


 簡素で特徴にとぼしい、のっぺりとしたモルタルの外観。

 なんでもこの平屋内には、茶道部の茶室があるらしい。

 たしかに外窓の一部はしょうで閉め切られており、おそらく室内も和室の造りなのであろう。


 ただしどうにも不可解なのは、その閉ざされたはずの窓障子や出入口の引き戸から何やら奇怪なダークトーンの湯気のようなものがれだしてただよっていること。

 おどろおどろしい光景を前に、最初に口を開いたのはユーシヤだった。


「なんてことだ。もうから湧きでる陰気きわまりない負のオーラが、まさかこんなところにまで影響をおよぼしていたなんて。それほどまでなのか、陰キャ属性とは」

「もはや手の打ちようもないでケス。恐るべし、陰キャ」

「そんな……、俺のせいでこんなことに――ってだから誰が陰キャだ! 亡者だ、モウジャ! つーか、あれは俺とは関係ナッシングでしょうが!」

「いや、ボクらに遊んでいるひまはないっ!」

 バサッと青のマントをはじきあげ、ユーシヤの表情がひきしまる。

 こいつ……。


「ボクが聞くところによると、茶道部で謎の食中毒事件が多発しているそうじゃないか。部員たちが体調を崩して次々に退部し、部の存続もあやぶまれる状態だってね」

「おまけに、しょあくの根源はただ1人部員として残っている魔王属性の転生徒であると、もっぱらのうわさでケス」


 話の緊張感を引き継ぐように、りん先生が深刻なおもちで続く――鼻も耳も唇も緑肌なので、顔色が悪く見えるだけかもしれんが。

 いやそんなことより、魔王属性の転生徒が何だって?


「ッケケ。実は我われに先立ち、学園は昨年度2名の転生徒を試験的に受け入れていたでケスよ。おそらく件の人物は、そのうちの1人。この度の転生徒会員にも選出されているのでケスが、当人がこうして茶道部の閉ざされた茶室にろうじょうしているため招集できずといったぐあいなのでケス……」


「ともかく何があったのか、事件の真相を突きとめなきゃ。ボクらの先輩にあたるその人が、転生徒ってだけで食中毒騒動の犯人に仕立て上げられている可能性もある。もしそうなら、一刻も早く濡れ衣を晴らしてあげるべきじゃないか。なのにさっきから何をおじづいているんだ、もう。ボクはいま勇者として、こう問わずにはいられないよ。君の勇気はどこへいったんだってね!」 

「俺のこんしんのノリツッコミはどこへいったんだよ!」


 やいのやいの、ユーシヤを先頭に表の引き戸から押し入ろうとする俺たち転生徒会。

 しかし厄介なことに、平屋の中は例の奇怪なダークトーンの湯気が充満して視界すら奪うほどだ。

 さらに奥間とおぼしきあたりからは、少女のすすり泣きが聞こえてくる。

 くそっ、お化け屋敷ですかってんだ。

 これじゃあ何も見えんぞ。

 とりあえず、このどんよりとした湯気の闇をやっつけちまわないことには……。


「いっくよん、聖なるつるぎは勇気の光――はぁぁぁっっっ!」

「ぬおっ」

「ッケケ」


 ユーシヤのかざす左手からけんげんしたのは――。

 雷光のように青くほとばしる、《聖剣》だ。

 気合たからかに、その剣閃を飛ばす一振り。

 増幅された聖剣の輝きは青い波動となり、たちこめる湯気の闇をあっけなく払い去ってしまった。


「無茶苦茶だな、おい。聖剣使いの勇者属性ってやつは」

「いやもう、そう無茶ともかぎらないでケス。あの輝き、あの《聖剣》がかいユーシヤの言葉どおり、勇気の光そのものなら……。古来、勇気を聖なる力と定義する文献はけして少なくないでケスし、その聖属性エネルギーが闇や邪気を払ったとしてもいちおうの筋は通る――まあ、科学的にはトンデモ理論でケスがね。だからこそ実に興味深い、ッケケ」

「フッ、勇気の光で視界良好! ボクら転生徒会の冒険は、誰にも止められないっ!」



『――あの……、お客はんどすか? おいでやす……』


 はんなり、と。

 その人は、闇の晴れた奥間から顔をのぞかせ、手まねきした。

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