第7話 デブと高校入学。


 入学式の日は人生という舞台の幕が上がる瞬間のようだ。


 作者不明の物語。結末は未定。

 舞台裏では緊張が漂い、期待と不安が入り混じる。

 皆自分こそ主役と信じ舞台に立とうとしていて。

 僕はもちろん脇役、と自分に言い聞かせた。



 そんな無用なことを考えている内に入学式が終わり、移動が始まる。


 当たり前だけど、周りは誰も知らないヒトたちばかり。

 クラスメイトらしき人物に目星をつけて後ろをついていくと、なんとか無事にマイ教室へ到着できた。


「同じクラスだな」

「だね。◯◯は◯組らしいぜ」


「やばいね〜同クラだよ〜」

「草だね〜」

「その反応は草」


 すでに会話の盛り上がっているグループが複数個出来上がっている。

 地元の出身中学校が同じ陽キャのみなさんだろうか。


 さて、僕は陽キャムーブをカマすべき?

 もちろんそんな事はしないです。

 というか、絶対事故る。


 陽キャの皆さんたちと違って、僕は僕らしく後の席の人物に、かすかに会釈のあいさつのみ。


 大丈夫。

 だって、デブ&テイクの師匠シンジさんもこう言ってた。

 ムリしなくていいって!



「タカシくん、ムリに自分を変える必要はないんだ」

「陰キャって悪いことじゃない。昔の言葉で言えば内向的、つまり自分に向き合える人だってこと」

「例えば僕の場合、性格を変えようと思ったわけじゃない」

「デブ&テイク、たったこれだけ」

「『デブは痩せた人よりもギブできる、つまりすごいギブ出来る人がデブなんだ』と自分に言い聞かせ続けただけなんだよ」


「ホントにそれだけでいいんですか? ……それなら僕にも出来るかな……」


「もちろんだよ! タカシくん、君ならきっと出来るさ!」



 ◆

 

 自己紹介は緊張したけどなんとか無事に終えた。

 出身が隣の県ということで、少しだけ関心をひいてしまったかもだけど。

 うん。それだけ。


 変に注目を浴びると、やっぱり中学時代を思い出して、悪い予感が頭をよぎってしまう。

 気分が悪くなりそうになる。


 でも大丈夫。

 この学校には以前の中学校の同級生はいないのは分かってるし、生徒の質も良い学校のはず。


 後ろと隣の席の男子に話しかけられたけど、同じ隠キャ感を感じたので、友だちになれるかもしれない。


 これなら高校生活の3年間を目立たず騒がず平穏無事にやっていけるかな。



「彼、やっぱりあの時の男の子だよね……?」



 まさかこちらを見つめる1つの視線があったなんて、その時の僕には知る由もなかった。




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