第6話 デブ meets ヒロイン。
その後はちゃんとシジミ山の頂上まで登りきれた。
初めての登山成功だ。
これでほんの少しだけ取り戻せた気がする。
一度は無くした自信と尊厳を――――
◆
県外の高校を受験する許可があっさり出てしまった。
両親は僕に甘々な気がする。
おかげで勉強へのモチベーションが爆上り。
見事、第一志望の高校に合格できた。
両親からは「一浪まではOK」って言われたんだけどね。
この春からは高校1年生だ。
虐めていた奴らがいない学校に通えるかと思うと、ホント嬉しいな。
そして。
僕の通う高校には遠方からの生徒の為に寮が用意されてるんだけど……
なななんと、この度、ひとり暮らしすることになりました。
「ひとり暮らしに挑戦してみたい」とダメ元でお願いしてみたら、お母さんが超乗り気になって、条件付きの許可が出ちゃいました。
「おかあさん、毎週ごはん作りにくるわね♪」
「うん、ありがとう」
そう。
その条件は、毎週末、お母さんが料理を作りに来るというモノだ。
1週間分のごはんをまとめて作ってくれたり、持ってきてくれたりするつもりらしい。
今まで自分で料理したことのない僕としてはかなり有難い。
少しずつ運動やダイエットもしていこうと思ってはいる。
でも、まだまだ食欲は旺盛。
それに縦方向にもまだまだ成長するかもだしね……
もちろん、ひとり暮らしの醍醐味(?)の自炊にもチャレンジしていきたい。
目指せ、料理男子。
「お父さんも寮というヤツにはあまりいい想い出ないしな」
何故かお父さんの許可もでたー。
というわけで、ひとり暮らしの部屋に帰る僕。
ついさっきお母さんを駅で見送ってきたので、部屋に戻るのは僕ひとり。
まだ慣れないドアを開けると、全てが新しく揃えられた僕の部屋が目に入る。
この部屋で過ごす日々が、どんな風に変化していくのか。
そんな想像が、胸を躍らせる。
「……買い物に行ってみようかな」
帰ってきたばかりでもう一度出かける用意をする。
冷蔵庫にはお母さんが作ってくれた7食分の凍った食事が入ってる。
だけど、最初からお母さんの食事に頼るのがカッコ悪い気がした僕は、食材を買いに出かけることにした。
デブ&テイクで大きいギブができる人になりたい。
その為に自信をつけたい。
だから人生初料理に挑戦だ。
メニューは、野菜炒めはどうだろう?
と考えながら近所にある商店街に来てみた。
するとどうだろう。
「そんなイヤがるなよ」
「や、やめて……放して……」
「ホンの少しお茶するだけだからよ」
「……」
商店街で地元らしき地味な格好をした少女が4、5人の派手な格好の不良少年たちに囲まれていた。
ナンパだろうか。
少々強引にどこか別の場所に連れて行こうとしているようだ。
うん。
地元風少女は困っていると判断。
瞬時に"デブ&テイク"の教えが僕の中に蘇った。
この瞬間、内なる心が「僕みたいなデブに助けられたらこのコは迷惑に思うぞ」とささやく。
でももう遅い。
もう少女と彼らの間に割って入ってしまった後だった。
「なんだこのデブ」
「デブがナイト気取りか」
「デブはそのへんを転がっておけよ」
「わははは」
バカにするような笑い声を立てる少年のひとりが、僕の胸を押すようにしてくる。
「おら、どけよ、デブ……!?」
高圧的に迫る不良少年が僕を退かそうとしてくるが、僕の体は意外にもビクともしなかった。
「な、なんだと」
「この肉の
加勢してきたもう一人も何のその。
シンジさんに教えてもらった通り、質量は力だった。
それから、登山の後に体幹トレーニングを頑張った成果も出たかな。
「デブはバリケードにもなるのですよ」
ニヤリと片方の口角だけ上げながら
内心ビクついている。
心臓は縮み上がっている。
だけど、"デブ&テイク"の教えを胸に勇気を奮い起こす。
「デブは痩せた人よりもギブできる、つまりすごいギブ出来る人がデブなんだ」
シンジさんに教えてもらった通り、自分にはすごいギブが出来ると、何回も自己暗示をかける。
気合を込めた目で、絶対に引く気はないことを不良少年たちに伝える。
「……アブねー野郎だ」
「てめぇ今度会ったら覚えてろよ、ブタ野郎」
不良少年たちが、ナンパを諦めて少女のもとを離れていく。
うそ。
まさかこの僕が、不良少年から少女を護れたのか。
いじめられっこの陰キャデブの僕が?
「あ、ありがとう……?」
地元風少女が、何故か疑問形でお礼を言ってきた。
同学年くらいだろうか。
よく見るとけっこうカワイイかも?
赤いフチのメガネも似合ってる。
これは不良少年たちにナンパされるワケだ。
「いえ、デブ&テイクですから」
「デブアンド……?」
あ。
困惑させてしまった。
やっぱ突然、"デブ&テイク"なんて言われても困るよね!
「あっ間違えた、困った時はお互い様ですから。では」
僕は逃げるようにその場を後にした。
「ああっ。……助けてくれて、ありがとうございました!」
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