第4話 デブと登山準備。


 僕の中にすっと入ってきた言葉「デブ&テイク」。

 その場所が、僕の中で熱を放ち始めている。

 この熱が冷めてしまう前に、一歩踏み出したい。

 そのための自信が欲しい。


「登山……とか?」


 口に出してみると、まあまあのハードルのように感じた。


 ベッドに寝転がったままスマホで「登山 初心者」と検索してみる。


「ちゃんと初心者に向いた山もあるみたいだ……」


 明日、お父さんに相談してみよう。



 そんなことを考えていたら気持ちが高まってしまった。

 なかなか寝付けない……




 気がついたら朝になっていた。


 5時半だ。

 こんな時間に目を覚ますのはいつぶりだろう。


 目覚ましかけてないのに。

 昨日遅くまで寝れなかったのに。

 起きた。


 もうお父さん起きてるかな。

 朝早い人だから、もう起きてるかもしれない。

 そう思いながらリビングに行くと、いた。


 驚いた顔が2つ。

 両親揃っていて、都合がいい。


「タカシ、どうしたんだ、珍しいな」とお父さん。


 ダメ元でお願いしてみるか。


「お父さん、お願いがあるんだけど」

「お願い? 何かな」

「登山、したい」

「タカシが登山……?」

「ダメ?」


 ダメかな……


「登山は安全性が重要な活動だからな」


 ダメと言われそうな雰囲気。

 危険だからダメ?


「ダメじゃないさ。なにか理由があるんだろ?」


 理由……

 ここは、しっかりと説明する!


「自信をつけたくて」

「そうか」


 やっぱり、"デブ&テイク"という哲学については言えないな。

 胡散臭いと思われそうだし、うまく説明出来る自信がない。


 考え込むお父さん。

 ……


「タカシはどこの山を考えてるんだ?」

「近くのシジミ山、って山」


 シジミ山。

 昨日、インターネットで調べておいた。

 割りと近場にある、初心者向きの山。



「今度の土曜日、一緒に専門店で準備して、日曜日に一緒に山に行こう」

「いいの!?」


 やった!


「ああ。だけどお父さんも登山は初心者だからな。インターネットで調べたりお店の人に聞いたりしよう」

「うん」


「お母さんも、いっしょに行っていい?」


 えっ!? お母さんも!?


 何だか、お母さんの目が輝いてる。

 興奮してるのか、いつもより少し顔が赤い。

 何だか浮かれてるみたいだ。


 僕は少し恥ずかしかったけど、


「お母さんも一緒に行っていいよ」


 と許可を出すことにした。


 両親2人共、少し涙ぐんでるかもしれない。

 微笑みながら。


 朝っぱらから何だよ。


 僕は恥ずかしくなって、この後すぐに自分の部屋に退散した。


 ◆


 土曜日まで時間があったので、僕が簡単な計画を立てた。

 初心者にはどんなメーカーの靴が合ってるのか、用意しておくものとかを調べておく。


 土曜日になった。

 家族3人で専門店に行くぞ。



 両親が山登り用の服をペアルックにしてはしゃいでいるのは正直恥ずかしすぎる。

 だから他人の振りをさせてもらった。


 店員さんに、太ってる人の登山について、かなり良いアドバイスもらえた。

 登山グッズが揃ったぞ!


 そういえば、明日はお父さんがレンタカーを借りてくれることになった。


 お父さん、車の運転できたんだ!?

 親子なのに知らなかったなー?

 得意げなお父さん。

 自慢げなお母さん。

 また他人の振りしよっか!?



 そして登山当日の朝がやって来た。




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