第12話 でっかいねん
「おい、起きろ。去勢するぞ」
「ふぁっ!?!?」
どうも。今までに類を見ない最悪の起こされ方をされました。アルスです。
飛び起きて視界に入ったのは美人──だがしかし去勢芸人のリースである。コイツ相手には恐怖が勝って性欲が刺激されない。
「変な起こし方しないでもらえる!?」
「もうすぐ勤務時間だというのに貴様が来てないのが悪い」
え、マジ?
と思って時計をチラリ。見事に遅刻だった。
それは俺が悪いですね。
「それはすまん。というか何か好感度下がってない? 俺一応お前に認められた気がするんだけど」
刺々しいリースの様子に思わずツッコむと、彼女は青色の髪をイジりながら鼻を鳴らした。
キツめの美人としては実に様になってはいる。
「ふんっ。【聖騎士】としての実力。貴様が聖女様を護るに値する護衛騎士としては認めた。だが貴様の人間性と下卑た表情は一切認めていない。少しでもおかしな行動をすれば即去勢だ。分かったな?」
「殺すより怖いよその脅し文句……」
常に下半身を美人に狙われている──ハッ! 閃いた!!
……いや、でも相手がリースだからなぁ……。
デレたら絶対可愛いのは間違いないんだけど、ハッキリと「オマエキライ」オーラが出てるんだよな。
「何を考えているのかは知らんがさっさと準備して来いッ! この間にも聖女様は誰かにお命を狙われているのだぞ!!」
「……あぁ。まあ護衛としての心構えはしっかりするさ。仕事だし」
遅刻は完全に俺のミスだ。
わざわざ起こしに来てくれたリースに非はない。起こし方と口調には一匙の文句を言いたいけど。
「……分かれば良いんだ」
「おう……で、着替えたいんだけど」
「さっさと着替えれば良いだろう」
「いや俺ノーパンで寝る派だから見えるんよ」
早く出ていってくれませんかね? という目線を向けるが、当のリースは素知らぬ顔だ。
それどころか馬鹿にしたようにニヤリと笑う。
「ふっ、貴様の粗末なモノを見たところで意味はない。だが貴様がしっかり護衛に来るか見張らねばならないからな」
──はぁー?
ぷっちーんですわ。もう血管という血管かブチギレですわ。
人格、性格を馬鹿にされるのは良い。
そんなもん自覚してる部分だってあるし、大して傷つきはしない。はぁ、そうですか、で済ませられる大人の余裕はある。それは嘘かも。
でもなぁ──!!
俺のムスコを馬鹿にするヤツを──許しはしない……ッッッ!!!
俺は無言のままバッと寝間着を抜き捨てる。
現れたのはバッキバキに割れた腹筋と、均整の取れた体つき。
そして愛する自身の息子だ。
「なっ……!? ごほんっ、まあ、それなりに鍛えて──」
リースは俺の行動に面食らった様子だったが、咳払いをして落ち着きを取り戻すと、上から下へと視線を移していく。
腹筋を見て多少赤面していたのは可愛らし……ごほん! ともかくとして、徐々に下に移されていく視線は──ついにムスコとかち合い……
「でっっっっっ────!!!!」
白目をむいて気絶した。
☆☆☆
「よう、今日からまたよろしくな」
「……昨日は?」
「昨日はメイとレベル上げしてたな。そーだよ聞いてくれよ。昨日はイビルホーン的なやつと──」
気絶したリースを部屋に放って置き、聖女様の自室に入った俺を待ち受けたのは、一昨日と変わらず窓の外を見つめる彼女の姿だった。
ただ違うのは話しかければ言葉少なくとも返事が返ってくること。
昨日のレベル上げについて語ると、聖女様は表面上は冷静に取り繕っていても、目の端がピクッと動いたり口の端が震えていて、しっかり話を聞いていることが分かった。
どうしてこんなに無表情になっちまったのかは知らねぇが、少なくとも俺の目線では普通の女の子なんだよなぁ。
いつか普通に話してやろう、と少しの覚悟を決めた。
「……護衛は、そんな感じじゃない、と思う」
話し終えると、ポツリと呟くように聖女様が言った。その無表情の奥には、戸惑いのようなものが見えた。
「聖女様は嫌か?」
「……どっちでも、いい。どうせいなくなる」
ふ〜ん、なるほどな。さっぱり分からん。
さておき、これまでの護衛で何かがあったことは確実だが、わざわざ過去を掘り起こそうとする程デリカシーが無いわけじゃあない。
ただ、どうもすぐいなくなる、っつー単語がきな臭さもあり少々ムカつきもする。
確かに俺は【聖騎士】じゃなく【性騎士】。
【聖女】という伝説の職業と並ぶには穢らわしすぎる。率直に言うと汚い。ばっちい。
でも鍛えてきた実力には多少の自信はあるし、どのみち護衛を完遂できなきゃ"死"である。
「俺はいなくならない、なんてくっせぇ言葉は吐かねーよ。人間何があるか分からんし、死ぬ時は死ぬしいなくなる時はいなくなる。だがな、俺は一切死ぬ気はない!! どんな手段を使ってでも生き残ってやる。潔さ、誠実さなんぞクソ食らえだ」
ハッ、と笑い飛ばす。
生き汚いだぁ? んなもん知るか。誰だって死にたくねーんだから足掻くのは当たり前だろ。
「聖騎士、らしくない」
「聖騎士、聖女なんて言われよーがただの人間だろうが」
「……!」
聖女様は俺の言葉に目をパチクリと驚いたように瞬きをした。あ、やっべ。
「あ、今の言葉ナイショな。教会くんにバレたら処刑されっから」
「……台無し」
聖女様は再び窓の外を見つめ始めた。
どんな表情をしているか分からないが、決して悪い表情ではないと思った。
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前半と後半のギャップがエグいて
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