第11話 レベル上げ②

 ……幸い俺達のことは気づかれていないようだ。

 魔力探知をする魔物も中にはいるが、イビルホーンの場合は自身の纏っている魔力が濃いせいで、他の魔力を探知することは難しいのだろう。


 不意打ち上等。

 倒せるヤツはどんな手段を使ってでも勝つ。それが俺の信条だ。下手に拘って死ぬのが一番ダセェからな。


「手助けはいりますか?」

「──いや、これくらいなら一人で勝てるぜ」

「さすがはアルス様です」


 ただでさえ過大評価されてるのに、何でそれを煽る真似するかね、俺。

 ……だって格好悪いとこ見せたくないじゃん!!

 

 男はな。いつだって虚勢と見栄で生きてんだよ。 

 割と醜態晒してるお陰で無駄なプライドは無くても、美人にイイとこ見せたいって欲in性は豊富にあるのだよ。


 ……イビルホーンは結構強い。

 だけど……ここでヤらねば男が廃る。

 醜態さらせばち◯こも勃たぬ。というか斬られる。リースに。



 俺は覚悟を決めて茂みから姿を現す。

 後ろを向いているイビルホーンだが、流石にこれ以上近づけば気配でバレるだろう。


 だからこそ──攻める……!!


「……ブモッ!?」

「死ねオラァァァ!!」


 魔力による身体強化を全開にし、特に足に多く回す。……奇しくも必要なのはイビルホーンの攻撃手段のような神速からの一撃。

 奴の攻撃方法的に、必ず速度を出すための"溜め"があるはずだ。


 ──剣が迫ってから気づいても……遅いッ!!


 技術と魔力。

 使える全てを持って、俺はイビルホーンの胴体部分をバッサリ斬り裂いた。

  

 ──舞う鮮血。

 だが……、


「浅いかッ! クソッタレ!」

「ブモォォォォオオオ!!!!!」

「あぁはい! そりゃ怒るよな!! 俺も怒ってんだわ! 自分の不甲斐なさにな!! 死ね!!」


 咆哮を上げるイビルホーンはすぐさま攻撃態勢に移る。

 ひづめで地面を掻き、急激にヤツの足元に膨大な魔力が纏っていく。


 ──ダメだ!!

 再度攻撃を仕掛ける前にヤツの攻撃の方が先に届く!!

 防御手段はある……が、できればアレは使いたくない。自分の力で勝ってから初めて誇れんだろうが!!


 ──イビルホーンの攻撃は直線方向。

 今から横っ飛びに逃げたところで攻撃前に軌道修正されてちゅどーんってされてジ・エンド。

 

「唸れ反射神経……っ!」


 ヤツが飛び出してきた瞬間に避ける。

 少しの距離は空いている。ギリギリ避けれるはず。


「ブモオオオォォオオ!!!」

「っ、危ないっ」

「ここだろォォ!!」


 メイの心配気な声が聞こえる──そのお陰で攻撃のタイミングが掴めた。

 眼の前からイビルホーンが掻き消える──が、すでに俺は横に飛んで逃げることに成功していた。


「っ、ハァ!! やってやったぞクソ!!」


 ──ドゴオオォォン!!!

 木々が薙ぎ倒される轟音が響く。あんなん食らったら普通に死ぬわボケ!!


「まだだ」

 

 避けたのは良いけど倒したわけではないからな。

 とはいえ、あれだけの破壊力。そうポンポン攻撃することもできない。

 ならば今が攻め時ッ!!


「ブモォ……!?」


 突進の勢いで俺を少し見失っていたイビルホーン。何で直線方向しか攻撃できないのか分かった気がする。

 コイツ馬鹿なんや。俺と一緒だな。


「今度こそ死ねオラァァァアッ!!!」


 多分対外的に見ても【聖騎士】が言って良いセリフじゃないと思うが、戦いでそんなのクソ喰らえだ。


 叫びで己を鼓舞し、俺はイビルホーンの横っ腹に剣を突き刺した。


「ブモァァオオオ!!!」

「あばよクソ牛!」


 断末魔の叫びをあげたイビルホーンは、今度こそ完全に沈黙した。

 ……俺の勝ちだ!!


 勝利を自覚した途端、急激に体に力が溢れる。

 多分レベルアップしたんだろう。


「こりゃすげぇな」


 身体能力も魔力もかなり上がった。

 ……んー、でもやっぱりレベルアップの恩恵で上がった身体能力より、魔力の方が強化効率は良いな。

 合算値になるからレベルアップするに越したことはないが。


「おめでとうございます、アルス様。見事な戦いでした」

「まあ、余裕よ」


 全然危なかったけどね。ミスったら軽く死んでたけどね。でもッ!! 見栄は張るのだよ。ふっ。

 

 微かな笑みを浮かべて祝福してくれるメイに、俺は思いっ切り鼻の下が伸びてることを自覚しながらソレを無視していた。

 戦闘中も俺を心配していたみたいだし、以降、好感度が上がっているようで嬉しいね。


 ……まあ、恋愛感情とか微塵もないんだろうな、って感じだけど。あの目線は尊敬とかそっち方向だ。

 間違っても甘酸っぱいヤツではない。


 ……残念だけど、そんなもんだよなぁ。


 そんな落胆をしていると、メイの後ろ側から急激な魔力の高まりを感じた。  

 何かが猛スピードでやってくる──!!


 魔力探知を死ぬほど鍛えたからこそ分かる遠くの距離からの攻撃。

 この魔力は──イビルホーン……ッ!!!

 仲間の死を察知して攻撃してきたのかッ! 種族特有のスキルだな……!


 ヤバい、メイは気づいていない。

 気づいた時にはすでに攻撃が届いている頃合いだ。恐らくまともな防御スキルの無いメイでは、あの一撃を受けるのはマズい。

 おまけに今日のメイは完全武装ではない。


 ──まるで時間が止まったかのような錯覚。

 行動に迷う俺の心の中で、


『ヤりなさい』


 そんな声が聴こえたと同時に──


性なる盾ホーリーシールドォォォ!!!!」


 ──全力で叫んでいた。


「何を──まさかッ!」

「間に合ええええええ!!!!!」


 ──ドンッッッ!!!

 と、鈍い音が響く。


 祈りを込めて目を開けると──そこにはが作った性なる盾ホーリーシールドにぶつかり死したイビルホーンと、呆けた表情で私とイビルホーンを交互に見るメイがいた。


「あ、あの……」


 私を見つめるメイの瞳はどこか揺れている。  

 突如視覚外からやってきた攻撃。恐ろしい思いをしただろう──。

 私は安心させるようにふわりと微笑み、


「無事で、良かったです」

 

 と、囁くように言った。

 

「どうしてそんな必死に私を……」 


 何を言っているのだろうか。


「そんなの──貴女を護りたいからに決まっているじゃありませんか」

「────っっ」


 人を護るのは当たり前だ。

 世界が美しくあるためには、人の営みは不可欠。人を護り、人を慈しみ、人を愛する。

 ただそれだけで、世界は途端に美しく色づく。


 メイを……人を護ることは当たり前なのに。

 何をそんなに驚いているのだろうか。



「──人に護られたのは、初めて……」


 惚けているメイに疑問符を浮かべ──ハッ!!


「んあっ!? 何言ってた俺!?」


 記憶曖昧なんですけど!!!!

 アレか!! 性欲の消費量でその時に意識があるのか無いのか決まるのか!? 知らんけど!!


 ……んー、あれだ。

 無事で良かった、的なことを言ったんだったな。

 それ以外はあんまり記憶ないけど。


 てか護るのなんか当たり前じゃーん。

 好感度上がってワンチャンむふふな事ができるかもしれないからな!! 好感度管理は大事なんだよなぁ。  

 問題は現時点の好感度が一切不明な上に恋愛感情は皆無ってことだが。


「よし、これで2体倒したし戻ろうぜ。もうクタクタだ」

「そ、そうですね……。戻りましょうか」

 

 ……?

 なんか耳が赤いし挙動不審だな、この人。 

 まだビックリしたのが抜けねぇのか。まあ、あんなのいきなりやってきたら普通は気づけんし驚くよな。


 あーー、魔力探知鍛えてて良かったー。

 こればっかりは師匠に感謝だぜ。

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