第10話 レベル上げ①

 初護衛を終えた翌日。

 今日は休日である。休日という名のトレーニング期間である。 

 そんなわけで王都からちょっと離れた森の中に今はいる。

 一回休日って単語を正式に調べて俺の前で大声で叫びながら発表して欲しい。


 だが──!!

 今日に限っては全てを許そう。

 なぜなら、


「どうぞ、よろしくお願いします」

「まさかメイが付いてきてくれるとはな」

「アルス様の実力を鑑みれば護衛などいらないでしょうが、万が一のこともありますから」

「過大評価されすぎなんだよなぁ……」


 ──メイがいるからである。 

 【聖女】よりかは優先度は低いとはいえ【聖騎士】も重要な職業。

 Lv.1では不足な事態が起きる可能性がある、ということで、護衛として【黒騎士】のメイが派遣されたのだ。

 相変わらず過大評価をされてるようだが……どう考えても体乗っ取られた時の出来事なんだよなぁ……! 

 俺であって俺じゃないため、少々の罪悪感──なんてあるわけねーわ。使えるもんは使う。

 意識が違ってもメイを倒した体は俺だからな! 


「本日はレベル上げに最適な魔物、イビルホーンを狩っていただこうかと思います」

「イビルホーン? 割と強い魔物じゃなかったっけ?」

「ええ。私も真正面から突進を受ければ怪我は免れません。ですがアルス様なら余裕かと。それに、危ない時は手助けいたします。勿論、そんな必要ないかと思いますが」

「随分と煽るじゃん……」

「……?」


 無自覚かよ怖い。

 今日は兜を着けていないメイ。大変眼福ではあるものの、俺を信じて疑わない純粋な目には気圧されている。

 まあ、美人に期待されて悪い気はしない。


 メイと二人きりの魔物狩り。

 ムフフな展開を期待していないと言えば嘘になるけど、どうもこの様子じゃ無理そうな気がする……。

 

「仕方ねぇか。真面目にやるしかねーもんな」

 

 このレベル上げは実のところ願ったりかなったりではある。


 ──レベル。

 生物を殺すことで上昇するもので、身体能力、魔力などなどが増える恩恵を授かることができる。

 しかし、この仕組みはしか発揮されない。


 当然俺も村にいた時に魔物を狩った経験はある。修行の一環だったり、村を襲う魔物を撃退したり。

 だけども実際はレベル1。

 とは言え、レベルを上げないと強くなれないわけではなく、職業を授かる前から技能──スキルを習得することもできるし、元々備わっている内包魔力を使用して身体能力を強化することができる。


 俺がレベル1でありながらメイと戦えた理由はそこにある。

 レベルは全てではない──が、上げて損があるわけじゃあない。これから護衛をするなら強くなるに越したことはないからな。


 隣をてくてく歩くメイに視線を奪われつつ、俺は滅多にしないシリアス顔で決意をした。

 

「そーいやイビルホーンってどんな魔物だっけ? 昔魔物図鑑で見た記憶はあるんだけど、詳しくは知らなくてさ。戦うなら情報が必須だし」


 事前知識無しで挑むのは流石に辛い、っつーことでメイに問いかけると、少し感心した様子で俺を見た。  

 え、そんな馬鹿だと思われてたん? 俺。


「イビルホーンは、禍々しい紋様が体に浮かんでいる一本角の生えた牛型の魔物です。特徴は脚から発する爆発的な魔力を使って放つ突進で、当たりさえすればどんなモノでも貫けると言われています。ですが、直線的な動きしかできないため、動きを予測すれば避けることは可能です」

 

 なるほどな。

 威力はヤバいけど直線的な動きしかしない、と。

 ……とはいえ、メイが食らってヤバいってことは突進のための推進力もかなりのものだと推測できる。

 つまりは直線的な動きでも速すぎて避けれないって可能性がある。  

 

 特に俺を過大評価してるメイの言葉だ。

 気を引き締めないと呆気なく死ぬわな。


「……事前情報など考えもしませんでした。全部ぶった斬れば早いと、今まで思ってましたから……」

「……!?」


 隣で小さく呟く声が聴こえ、俺はギョッとした。

 あの感心した目線はそういう意味かいっ!

 それができるのは一握りの強者だけなんよ。


 ……意外と脳筋なのかコイツ?

 

「さ、さて、そろそろイビルホーンの縄張りに入りますよ」

 

 メイはその真っ白い頬を微かに赤く染め、誤魔化すように先を促した。どうやら俺のギョッとした視線に気がついたようである。


 ──くっそ、だからズルいって!!

 そんな可愛い仕草見せるなよ。惚れるぞ。惚れ散らかすぞマジで。

 

 俺の性癖ホルダーに【金髪美女の照れ顔】がシュタッと追加された瞬間だった。

 No.249っと……。心の中のナンバリング、完了。


「……ん? アレか」


 少し歩くと、茂みの奥に禍々しい紫色の幾何学模様がある黒色の牛がいた。

 纏う魔力とオーラは、かなりのものだ。

 これを余裕とか言ったメイはマジでどうかした方が良いと思う。


 ……まあ、敵わないわけではねーけど。


「よし、ヤるか」

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