第7話 去勢待ったなし

「お迎えに上がりました」


 ──これが。


「落ち着いてこちらをお飲みください(薬サラー)」


 ──こうなって。


「今からお前のち◯こを斬り落とす」


 ──こうじゃ!!


「おかしくなぁい……?」


 急展開すぎてついていけないんですけども。

 よしんば殺す! とかならまあ分かる。【聖騎士】に恨み持ってることが確定的になるし、嫌だけど理由としては納得できる。


 何でち◯こなん。

 急に俗物的なもん斬りに行くじゃん。

 

 言っておくけど殺されるより効くんだけど、その脅し文句。俺のアイデンティティだぞ。

 

「選ばせてやる。竿から行くか、玉から行くか」

「未だかつて聞いたことない最悪の選択肢」


 どっちも嫌です、って言っても受け入れてくれなさそうな顔してるもんなコイツ。

 

 やはり馬車までの女性の貼り付けた笑顔は余所行きの表情だったようで、今はキッと俺を睨みつけている。

 まあ、元々切れ長の目でキツそうな雰囲気はあったし、ある意味似合ってるっちゃ似合ってるし、そういう系統の美人ってことで尚更良い……けど、そんなこと考えてる場合じゃねぇんだよな!


「やっぱりアレか。【聖騎士】を憎んでるんだろ? 自分の立場が脅かされるからって」


 俺は逆に挑発をしてみる。

 話し合いは確実に通じない雰囲気をしている。ならば、挑発して時間を稼ぎ、メイとかの救助を待つ。

 こういう輩は意外とペラペラ話してくれるもん──と思っていると、女性はキョトンとした表情で首を傾げた。


「何を言っている? 【聖騎士】を憎む者など騎士団には存在しない。それだけ大切で重要な職業だ。……あぁ、なるほど。確かに貴様の言う通り、立場上、【聖騎士】を快く思わない者もいるかもしれないがな。私から言わせればそういう奴らは何も分かっていない愚図同然だ」

「え、じゃあ何でこんな状況になってるわけ……? 憎んでないなら俺の息子斬り飛ばす理由ないんじゃ……」

「──問題は!! お前が男で!! 聖女様の護衛を務めることになることが決まったからだ!!!」

「はぁ!? だから何だよ!!」


 聖女様の護衛だぁ?

 んな話一切聞かされてないんだが!? 

 ……いや、決まったっつってたな。

 要は俺の王都でのやるべきこと。それが聖女の護衛ってことなのか。

 だからってち◯こ斬る理由が分かんねぇよ。


 女性は髪を振り乱して激昂したように言う。


「【聖騎士】なんだから清く正しく、聖人のような男だと期待した!! だがお前は別段普通の男だった!! 私を見た時も少し鼻の下を伸ばしただろう! 案外そういうのは分かる!!」

「ぬぐっ」


 間違いじゃないからこそ否定できなかった。

 ……仕方ないだろ! 美人見たら鼻の下を伸ばすのが礼儀って師匠に習ったぞ!(嘘)


「とは言え、だ。【聖騎士】は【聖騎士】。貴様が聖女様の護衛をすることに異論はない。だがな!! 万が一のことを防ぐため……! 貴様を去勢せねばならんのだ……ッッ!」

「お前アレだろ! 男は皆ケダモノ。美人とあらばすぐさまワンチャンワンナイト狙うクズでいっぱいとか思ってるクチだろ!!」

「何も間違っていないではないか!!」

「ちっげぇぇよ!! 内心下心あるけど手出せなくてヤキモキしてる童貞がほとんどだよ!!」


 俺とかな。

 下心と性欲の強さには自信がある。だけども、そのリビドーに身を任せて片っ端から手を出せるか、と問われれば当然違う。


 そんな!! 度胸は!! ない!!


「貴様の経験の有無などどうでもいいがな。リスクがあるなら事前にそれを取っ払うのが定石だ。聖女様は国の宝。代えが利かない存在なのだ」

「俺も代えが利かないと思うんだけど」

「聖女様は必ず世界に一人現れるが、【聖騎士】は200年もいなかったのではないか。代えが利かずとも、いなくても世界が回るのは事実だ」

「……言われたら何かそんな気がしてきたわ」


 【聖女】という職業。

 ありとあらゆる病、怪我を治し、世界に祝福と希望をもたらす者。

 噂に聞く奇跡の数々は真実のようで、職業信仰が活発化してるのも【聖女】の活躍が一因を担っているようだ。


 ……だからと言って去勢は嫌に決まってんだろ。

 俺の竿と玉は、一個人と身勝手な理由で失って良いものじゃない。というか失ったら【性騎士】としての力が出せなくなる可能性高いし。


 何とかして説得しよう──と顔を上げた瞬間、視界に入ってきたのは剣を振りかざす女性の姿だった。


「ちょっとォ!?!?」

「斬り捨て御免! 安心しろ! 狙って斬るのは得意だ!」

「安心って言葉を一回見直して来い、クソが!!」


 普通に縛られてる俺にどうすることもできない。

 避けようがない。ジ・エンドである。


 焦りとは裏腹に、俺は申し訳無さが一杯だった。


 ごめんな息子。一度も使わせてやれなくて……。

 目を閉じ祈る。安らかにイけるように。


 ──ガキンッ!!


「……なっ!?」


 ──しかし痛みはやってこず。

 なぜ防げたかも分からないまま、俺はふっと意識を失った。



《職業の根幹に関わる危機を察知。自動的にエクストラスキル『嗜欲の剣鬼』を発動します》



「やれやれ……こうもスパン短く出番がやってくるとは思いませんでしたねぇ」




──────


意識消失系主人公。

最早下ネタなのかシリアスなのか分からない。


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