第3話 だから性騎士だって言ってんだろッ!!!(半ギレ)

『……のう、アルス。どうしてお前はそんなに才能があるのに、肝心なところで致命的なミスをするのじゃ……。雑念が。雑念が凄いぞお主。お主普段から脳内で喋るタイプじゃろ。あれ邪魔』

『どうしろと!!!!! つか何で分かる!!』


☆☆☆


 ……はっ!

 危ない、何とか意識を取り戻した。

 

「剣の技量は私よりも上のようですが──戦いに関する技術、戦い方そのものは粗が目立ちますね」

「冷静に言わんでもらっても良いですかね。こっちはボロボロなんだよ」

「聖騎士だというなら、職業スキルを使ってください。使い方は職業を授かった時点で自ずと分かるはずです」


 ……だから俺【性騎士】なんだって。

 くっそ、分かってたけどめちゃくちゃ強い。

 剣の技量とか関係ないくらいに戦い方そのものが巧い。

 なまじ師匠としか対人戦をしたことがない経験の差が如実に出てる。


 証拠に俺はメイの鉄仮面を外すことも、鎧に傷を付けることもできずに、俺だけがボロボロの萎びれたくっさい雑巾みたいになっとる。


 俺は苦虫を噛み潰したような表情をする。

 【性騎士】のスキルの使い方は何となく分かる。だが、肝心の──


──────

性なる盾ホーリーシールド〉……性欲を消費することであらゆるダメージを防ぐ盾を出現させる。

※盾の耐久値はスキルレベル、消費する性欲量、性欲の質により変化する。

──────


 ──性欲を消費ってどゆこと!?

 これの正体がわかんなすぎて使い時に悩む。

 性欲を消費したらどうなるのか?


 性欲は回復するのか、それとも消費しっぱなしなのか。


 ──困るわ!!

 性欲とか俺のアイデンティティそのものだぜ!?

 消えたら俺が俺じゃなくなる。


「……では、高威力のスキルを使用いたします。避けることは不可能。職業スキルを使わないと──死にますよ?」


「──ッッ!」


 ──刹那、凄まじい殺気と威圧感が迸った。

 大剣を上に振り上げる。

 渦巻く魔力と黒い光が大剣に徐々に集まっていく。


 素人でも分かる。

  

 アレ喰らったら死ぬ。死にます。

 しかも、余程効果範囲が広いのだろう。どこに避けても当たってしまうことは確実だ。


 どうしろと?

 

「あぁ、もうッ! やってやるよッッ!!」


 まだ見ぬ【性騎士】頼んだ。お前を……俺の性欲を信じている!!


 生半端な盾じゃ間違いなく秒で消し飛ぶ。

 メイは一向にスキルを見せない俺に痺れを切らして、普通に殺そうとしてきた。

 

 ──注ぐはありったけの性欲。


「持ってけ泥棒っ! クソッタレッ!」


「──っ」


 眼の前に手をかざした俺を見てメイが僅かに身動ぐ。その様子を無視して俺は、叫ぶようにスキルを使用した。


「【性なる盾ホーリーシールド】ッッッ!!!」


 アッ、うっ……えっ?


 体中の何かが強制的に引き出されて、体外に放出していく感覚。

 熱い──その感覚を最後に、俺の意識は途切れた。



《エクストラスキル【嗜欲の剣鬼】が発動しました》



☆☆☆


Side メイ


 ──空気が変わった。

 アルスと名乗る少年。


 剣技に至っては目を見張るものがあるが、【聖騎士】としてのスキルは一切使わない。

 才能はある。途轍もない才能があるだけに──殺すのが酷く惜しい。


 命の危機を前にしてスキルの使用を躊躇う必要はない。【聖騎士】であるならば勿論のこと。

 ここまで渋るということは、少年が【聖騎士】ではない証拠となる。


 ……惜しい。

 王都で正しい修練を積めば私のことを追い越すことも容易だろうに。戦い方を学べば、栄転も夢ではないだろうに。


 私の流派と利き手を見破ったその観察力も含めれば、ここで殺すことは利益にはならない。


 だが、法は絶対だ。

 特に【聖騎士】を騙った者の罪は重い。即座の極刑が許可されるほどに勇者一行の職業は神聖化されている。


「殺したくはありませんが……仕方ないことです」


 仮面の下で小さく呟く。

 本来であればこんなに溜めるような技ではない。私が少年を殺すことを躊躇っている証拠だ。


 ──しかし、やるしかない……と正面を見た時。

 半ば自棄糞気味の表情で少年は叫んだ。


「〈ホーリーシールド〉ッッッ!!!」


 ──っ、まさかそれは……!!!

 

 少年の目の前に光り輝く壁が出現する。

 

 ──その技は……!!


 私は躊躇いを捨て、技を放つ。


「〈混沌の剣戟カオスブレイド〉」


 ──ズガガガッッッ!!

 大剣に集まった闇魔法を携えたが、地面を抉り取りながら少年に向かって行き──光り輝く壁に阻まれ消えた。


「これが【聖騎士】の力……」


 魔力を全力にして使っていないとはいえ、【黒騎士】Lv.78の力を込めた一撃だ。

 凡凡たる職業のスキルでは止めることもできず粉々になって消える。それ程に恐ろしいスキル。


 それを──止めてくれた。あの少年が。


 私は微かにホッとして大剣を下ろそうとした──瞬間。


 ──カキンッ!


「──っ、も、もう貴方の力は分かりました。これ以上は不要です」

「──一方的に技を撃っておいて、それは無いでしょう」


 ……さっきまでとまるで様子が違うッ!

 歪んだ笑み。何かを確かめるように軽々と剣を振る少年は──ただただ戦いを楽しんでいるようだった。


「ふふふ、ふふふ……行きますよ」

「──速いッ!?」


 剣戟が降り注ぐ。

 技術──とりわけ戦い方が先程より数段……それ以上上手くなっている。

 的確に隙を突く厭らしさ。呼吸の隙間や体勢を整える合間を狙って、意図的に攻撃のテンポを乱してくる。


「くっ……」


 救いなのは少年がLv.1だということ。

 そのお陰で一つ一つの攻撃は然程重くない。それでも普通のLv.1とは思えない異常性があるのだが。


「あぁ……世界は美しいっ! こんな争い事はやめて世界平和の話でもしませんか?」

「──っ、襲いかかってきたのはあなたの方でしょう……! ……舐めないでください……! 〈黒の演武〉!」

「元はと言えば疑って殺そうとしてきた貴方が悪いと思いますがねぇ」


 身体能力を上げる職業スキル。

 黒騎士として名を馳せた所以のスキルだ。


 技術で追いつかずとも、強大な破壊力で範囲攻撃を行えばどうすることもできないはず。


 私の体に黒いオーラが纏わりつく。

 その様子を少年が見ると、ニヤリと笑って何かを呟いた瞬間──


「っ、ぐあっ──!!」


 パキン、と硬質な音が響き渡った瞬間、私の兜が粉々に砕け散った。


「な、にを……」

「うーん、ここまでですか。彼にはもう少し頑張ってほしかったですが」


 良くわからないことを呟くと同時に、少年が地面に倒れ伏した。どうやら力を使い切ったようだ。


「紛れもない、【聖騎士】の、力ですね……」


 そして私も意識を失った。



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