第2話 だから性騎士なんだって(n回目)
二日間は平穏だった。
寒村から出た【聖騎士(誤解)】に村民全員大喜びで、村を上げての祝いの宴が開かれた。
開かれたもんだからよ……言えねぇだろ!!
あんなに嬉しそうに、涙まで浮かべられて祝われたら「あの、本当の職業……性騎士なんす」なんて言えるわけないだろ!! 道徳的に考えろよ!
「ま、まあ、あれから音沙汰ないし普通に過ごせるんじゃね……?」
なんてことを考えていた翌日。
「──聖騎士アルス様。私は【黒騎士】の職業を授かりましたメイと申します。そのお力を是非王都にてお役に立てていただきたく参上いたしました」
家の前に、漆黒の鎧と黒々とした大剣を携えたメイと名乗る女騎士が襲来してきた。
──黒騎士。
確か攻撃に特化した騎士の上位職業で、真の強者は山をも割ることができると言われている。
簡単に言えば聖騎士の攻撃特化バージョンだな。
……とはいえ、女性の口振りから分かる通り、世界を救った勇者パーティーに所属していた【聖騎士】という職業の地位は重く、黒騎士よりも立場は上なのだ。
正直、遥かに俺より強い奴に跪かれるの──ちょっと気持ちいいな……! 俺の職業、性騎士だけど! 人を守るどころか穢しそうな職業だけど!
「はぁ。あの、断れる的なアレはある?」
「できません。これは王命です」
「そっすか……。じゃあ行きます……」
断れば"死"デス! って脅されてるようなもん。
王命=王の命令。この国の国民である以上逆らえないんですよね。権力には弱いよ俺は。
不承不承に頷く俺に、兜越しの女性がピクリと反応を示したような気がした。
……なんか反感買った?
声からして女性なのは分かるけど、全身真っ黒鎧だし表情分からなくて怖いんだけども。
これがバカクソ美人だったら全部許すがね。
「……では、早速参りましょう。馬車はすでに用意してあります」
「え、荷物まとめる時間は……?」
「生活必需品は全て用意してあります」
「思い出の品とかあるじゃん」
「あるのですか?」
「まるで思い出のない薄っぺらい人生を歩んできたと言わんばかりの!!」
「言っておりません」
くっそ調子が掴めねぇ。
おどけて色々と真意を探ろうとしても鉄仮面すぎる。物理的にも。
「あー、じゃあ剣だけ持ってこさせて」
「武器なども用意してありますが」
「手に馴染んだ物の方が上手く扱えるし、師匠にプレゼントされたもんなんだ。置いてくわけには行かねぇよ」
「……かしこまりました」
おや、ようやく意見が通った。
まあ、実際剣以外は必要のないものだし、大荷物持って王都まで行きたくなかったからな。
了承を得た俺は、直ぐ側に立て掛けていた武骨な長剣を剣帯に差す。
自称剣聖師匠が昔使ってた剣らしい。
金無い金無いとか喚いてるし大した業物ではないと思うけど、全然壊れないし使い勝手良いから愛用してるのだ。
「その剣は……」
「ん?」
「……いえ、それでは行きましょう」
俺の剣を見て一瞬反応を示した女性だったが、すぐに視線を逸らして歩き出した。
……あんなに重い装備をしているのに、体捌きに無駄がない上に移動が滑らかで静かだ。
余程の血の滲むような修練を積んでいないと辿り着けないだろう。
伊達に【黒騎士】じゃねぇ、ってか。
職業にかまけて努力を怠る奴が一番弱いって師匠も言ってたしな。
努力は報わないことはあっても裏切らない。
「えーと……メイ、さん? 他の人とかいないの?」
「敬称は不要です。御者以外の者はおりません。王都に連れて行くだけの任務に人員を割くメリットがありませんから」
「確かに」
え〜〜!! この鉄仮面と馬車で二人きりとかクソ気まずいんですけど〜〜!!
会話が盛り上がらないまま移動していく様が目に見えてるわ。
王都まで大体馬車で二日だったはずだし、野営も挟むのに無言とか軽く死ねる。
「こちらへどうぞ」
「あ、はい」
馬車の中に案内される。
かなり豪華な見た目だったが、中はそこまででもなく、普通の馬車といった感じだった。
……椅子も硬いな。体幹鍛えてなきゃ体バッキバキになるぞコレ。
チラッとメイの方を見るも、相変わらずその表情は兜に覆われて知ることができない。
話しかけたら返答はされるけど、どれもが事務的でめちゃくちゃ冷たい。
馬車が動き始めた。
ひたすらに沈黙が満ちる。
「……ちなみに王都で俺がすることって何なの?」
「王都に着き、陛下と謁見していただいてからお話いたします」
「えっと、礼儀作法とか全然分からないんだけど」
「最低限の敬語で対応していただければ問題ありません」
その言葉はありがたいけど、全てが絶対零度のごとく冷てぇ……。
俺はどうにかメイの鉄仮面を剥がしたいと、個人的な質問に切り替えることにした。
「メイって何歳?」
「21歳です」
「婚約者いる?」
「おりません」
「趣味は?」
「これといってございません」
「体重は?」
「56kgです」
全部言うやん。
包み隠さないやん。そこは隠そうよ。罪悪感が湧いてくんねんこっちは。
いや……でも中の人がわりとスタイルの良い美少女説が出てきてちょっとアガってくるね……。
【性騎士】を授かるくらいだから人並み以上に煩悩はあるんだよ。当たり前だろ。
うーん……何か……何かの質問。
あ、そうだ。
「左利きだよね? あと古神流かな?」
「……っ、なぜ、分かったのかお聞きしても?」
ようやく動揺が見られた。
ふっふっふ……ってイキることでもねーんながな。
「体捌き。完璧だけど僅かに重心が寄ってる。んで、古神流は大剣を使うって条件と、小柄で体重が65kg以下の者が使えるって条件を考えればかな。幾ら職業による身体能力があっても、体格で使える流派と使えない流派があるからね」
「……そうですか」
少しの沈黙の後メイが頷く。
そして、不意に御者に言って馬車を止めさせた。
村から離れた草原地帯だ。
「えーと……?」
「降りてください」
何を考えているか分からないものの、とりあえず指示に従って馬車を降りる。
メイも降りてくる──や否や、背中に差していた大剣を取り出して構えた。
「どうやら、只者ではないようですね」
「おぅ……なんで武器構えてんの? 殺される感じ?」
ちょっと待とうよ、落ち着こう。
我ら人類は拳ではなく言葉で解決してきたじゃないか……そんなこともねぇか。
疑問と焦りを顕にする俺に、あくまで冷静なメイが言い放つ。
「私に課せられた任務は二つ。一つ、聖騎士を連れて来ること。二つ、その者の授かった職業が本当に聖騎士なのか確かめることです。ご安心を。手加減はいたします」
「いや、職業を騙るメリットないだろ!? バレたら良くて牢獄、悪くて極刑じゃねぇか!!」
「いるのですよ。世の中には聖騎士の名誉が欲しくて、ただの【騎士】が聖騎士と嘯くことが」
「俺を疑ってるっつーことね」
「私の任務は聖騎士を連れて来ること。今ここで、聖騎士であることを証明してください」
大剣を構えるメイからは凍えそうなほどのオーラが発せられていた。
紛れもない強者。手加減するとは言っていたものの、早いところ聖騎士である証明をしなければバッサリと斬られることは確実だ。
──いや俺【性騎士】やねん。
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