第20話「友を探す旅へ征く」
ソルヴィア王国の大爆発からニ日が過ぎた。今回の件で各国は謎の集団による不法侵入及び武力介入に対する厳重警戒態勢が敷かれ全ての国で予断を許さない状況下に置かれるのだった。
◇◇◇
「おはようイングラムくん。準備は出来てるかい?」
ルークは朝食を食べ終えて、イングラムに聞いた。
「あぁ、万全だ」
イングラムは朝食を食べ終えてお盆をもっていく。リルルもそれに続いて、食堂へと持っていく。お盆を返し終えたふたりは座布団に正座した。
「レオンさんを探すためにはあまりにも人手が足りない。アデルとルシウスのふたりと合流するのが得策だろう」
「あのふたりなら必ず力を貸してくれるはずだよ。」
アデルバートとルシウスとは、魔帝都でお互い研鑽を積み続けた良き友であり、同期である。彼らもマナを持っているためレオン捜索の力となるであろうと踏んでいるのだ。
「それで、目処はついているのかい?」
「アデルの目処は立っている。あいつは氷の国、コンラにいるようだ。以前、王から同盟を組むためのデータを渡されてな、そこに“貴族殺し”という単語があったんだ。青い髪に赤い瞳と書いてあったからまず間違い無いだろう」
「ふぅん……さしずめ蒼髪ってところか」
アデルバートの能力、周囲の風景と完全に同化。気配を遮断する能力を持っていること、多種多様の暗器に肉体に刻み込んだ戦法を使う。
「それで、ルシウスの方は?」
「わからん、ルシウスに関してのデータは何も得られなかった。だが、今回の事件で
俺の国だったということが大々的に公開されている。向こうが認知してくれた可能性はあるぞ」
確かに、最強の騎士がいた国だとルシウスが知れば、心優しい彼のことだからコンタクトをとってくるに違いない。問題は、ほの彼がどこにいるかだが————
「悩んでいても仕方がない。イングラムくん、コンラへ向かおう」
ルークは即決断する。悩んで時間を無駄に潰すよりも、確実に再会できる方を選ぶ。
アデルならば、ふたりは居場所について知っているかも知れない。
「よし、そうと決まれば早速向かうぞ。
ルークの電子媒体にも座標を送っておく」
故ソルヴィア国王がイングラムに渡したデータをルークの端末に送る。これでルークもコンラへの道がわかるようになった。
「コンラは氷河の如き冷たい氷の大地の上に立っている国らしい。なんでも、周辺が海だから国自体が少しずつ移動しているんだとか……」
「てことは、この地図も完全ではないってことだね。」
地球の大陸は数万年の時をかけて大きく変動してきた。あの大陸は、それが数ヶ月単位で起こっているのだ。
「そうだな、だが手がかりはこれしかない。いくぞルーク」
「よし!向かおう!レオンくんを、仲間を探す旅へ!」
ふたりは頷き合って、立ち上がって外へ出ていく。それにリルルもそそっとついて行き————
「騎士様、剣士様、あのね————」
「どうした?」
意気揚々としているふたりを少女が制止する。
「私も、私も連れてって!」
思いもよらない衝撃の一言が少女の口から発せられた。
「リルルちゃん、これは遊びじゃないんだ。下手をすれば大きな怪我をしてしまうし、死んでしまうかもしれないんだよ?」
「おい、ルーク!」
イングラムがルークを咎める。この子にとってその言葉はあまりにも強すぎる。だが彼のこの言葉は事実だ。これから先、過酷な旅になるだろう。辛いことも苦しいことも、全て経験するのだから。
「リルルちゃん、君自身でよぉく考えるんだ。ただ俺たちについていく、というなら
連れていくわけには行かない。正直、君を絶対に守れると言い切ることはできない。」
「……うぅん……」
「ルーク、少し厳しすぎるんじゃないか?
リルルはまだ6歳なんたぞ?」
頭を抱えて悩むリルル。そしてルークに言葉を選ぶようにいうイングラム。
「イングラムくん、君の気持ちもわかる。
けど、今回の旅は常に死と隣り合わせだ。俺たちもずっとその子についてやれるわけじゃないんだ。人質に取られてもみろ。
君は攻撃できるのか?」
「……そうならないようにすればいい。
リルルは抵抗の術も知らないのだからな。」
ルークは頭を横に振り、イングラムの考えを否定する。
「いつもの君らしくない。“もしそうなったら”って考えはどうしたんだい?」
もしも……彼らの先輩であるレオンが口癖のように言っていた。万が一味方を人質に取られたらどうするか、敵に味方が操られていたら果たして倒せるのか。その覚悟が、己にはあるのか。と
「………」
「あの時のレオンくんの言葉は正しい。俺だって操られて君の敵になってしまう可能性もある。逆もまた然りだ」
その通りだ。ルークの言っていることは
的を得ている。そして、レオンのこの考えも間違えてはいない。しかしイングラムは、その答えが出せないでいた。
「もう一度聞こう。イングラムくん。この子がもし、敵になったらなら、君に攻撃できるかい?俺が敵になったら?アデルやルシウス、レオンくんが敵になったら?」
「俺は————」
「君に俺たちを、殺す覚悟はあるかい?」
最後のとどめの一言を呟く。目に見えぬ剣でイングラムの心を貫く。想像もしたくない光景に、冷や汗が全身を伝った。
「出たよ、答え、出た!私、どんなことにも負けないよ!」
うーんと頭を悩ませていた幼い少女は
強い意志を宿した瞳でルークを見上げる。
「負けない、怖いこと、辛いことがあってももう泣かないって、挫けないって決めたの。お父さんやお爺ちゃん、お婆ちゃんも、会ったことがないお母さんもきっと、きっとね、強くなれっていうと思うの。
だからね————」
ルークは腰を下ろしてリルルと目線を合わせる。そして————
「合格だ」
とびきりの笑顔を浮かべて、リルルの
頭をワシワシと撫でてやる。ちょっと加減ができていないのだろうか、彼女は少し痛がっているが、そこには笑顔があった。
「えへへ、たぁくさん考えたよ!」
「よし、偉いぞリルルちゃん」
その光景を、イングラムは目に留める。
あんな風にリルルの笑顔を見たのは久しぶりだ。あの笑顔を、自分は守りたいのではなかったのか。そうだとも、この力と知識はこれからも大切な人のために、弱き者たちのために振るうのだ。
「ルーク。俺も、この子に倣い負けないように尽力する。お互いが敵にならないように精一杯尽くさせてもらうがな。それと、俺は腐っても同士討ちなどはせんぞ。後味が悪過ぎるからな」
「うん、その通りだね。ごめんよ、キツい言い方をしてしまって。でも、君の考えが聞けてよかったよ。リルルちゃんのおかげかな?」
ふたりはリルルの方へ顔を向ける。疑問符を浮かべて首を傾げる彼女に、思わずくすりと笑ってしまった。そしてイングラムは腰を下ろしてリルルに目線を合わせ————
「リルル……これからの冒険は初めてのことが沢山起きるだろう。でも、危ない時は俺たちの言うことをよく聞くんだぞ?約束できるか?」
「うん!約束するよ!指切りげんまん!」
リルルはイングラムが国を出る前にやった
指切りげんまんを求めてきた。家族に聞いたのだろう。イングラムも笑みを浮かべながらもう一度小指をリルルの小指と交差させる。
「ええっとねぇ…ゆーびきーりげーんまん!嘘ついたら苦手なの飲ーます!」
「指切った」
(……ん?針千本じゃなかったっけ?)
顎に手を当てて思慮するルーク。イングラムはなんの疑問もなしに指を切った。確か西暦書では針千本だった気がするのだが————
イングラムはむくりと立ち上がってルークの肩をポンポンと叩きながら呟く。
「針千本はちょっと怖いだろ」
確かにな、と剣士は声を出さずに納得する。実際に飲み込むイメージをするが
全身に粟が立った。昔の人は恐ろしい言葉を作り出したものだ。
「よしリルルちゃん、風の剣士が肩車をしてあげよう!風が当たって涼しいぞー!」
「ほんと!?わーい!」
ルークは腰を下ろして両手を後ろへ伸ばす。そしてそれめがけて走って飛び乗るリルル。剣士は両手で彼女の両足をしっかり固定する。
「手を離さないようにね!」
「はーい!」
それっ!という掛け声と共に、ルークは
走り出した。微量の風のマナを放出しながら風はリルルに優しく吹いていく。
驚きの声はすぐに終わり、歓喜の表情と共に笑顔を浮かべるリルル。あんな事件があった後だというのに彼女はもう笑顔を浮かべていた。
(リルル……君は強い子だな)
無理をして笑っているようには見えない。
きっと心の底から、楽しんでいる。
(レオンさんやソフィア、いつか馴染の顔全員が集まれたのなら、俺もきっとあんな風に笑えるのだろうな)
イングラムは遠い、どこかで生きているであろう彼と、幼馴染みの友達を思いながら、剣士を追いかけていく。宿屋の主も微笑ましげにその光景を見つめていた。
「宿代、ツケとくぜ……!グッドラック!」
宿主はすっと背を向けて親指を立てて
自分の所有する宿へ姿を消した。
イングラムとルーク、そして幼き少女リルルは魔帝都の同期であるアデルバート・マクレインに会う為にコンラへ向かうべく足を進める。どんな困難があろうとも、決して諦めない槍使いと剣士は、少女の手を取りながら南へと真っ直ぐに走り始めたのだった。
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