第2話

「な、なに?神崎さん」

 神崎さんはずんずんわたしの方に迫ってくる。

「うーん。やっぱり気になるのよね、あなた。ねぇ、本当に勇者じゃないの?」

「だから違うって!」

 そういってわたしは逃げるようにその場から駆け出した。

「あ!ちょっと待ちなさいよ!」

 後ろから呼び止める声がするが気にしない。

 そのまま振り返ることなく全速力で走りだす。

 学校を出てそれなりに距離のある所まで来て、ようやく一息つく。

 後ろは・・・うん。逃げ切れたみたい。

 もう何だろう神崎さんは。

 あの人とこれから毎日のように会わないといけないのか。

 そう考えるとますます憂鬱な気分になってきた。

 気分転換にコンビニに行って何か甘いものでも買おうかな。

 たしかこの近くのコンビニは・・・

 キャーー―

 ⁉何、今の⁉︎悲鳴⁉

 咄嗟に悲鳴がした方を振り向く

 な、に、あれ?

 そこにはシルクハットにマントをつけた人間の影がいる。

 比喩なんかじゃなく、そこにだけ空間に穴が開いたかのような影がいる。

 その影はわたしと同じくらいの女の子をマントと思しき影の中に取り込んでいる。

 わたしの本能が言ってる。あれはやばい奴だ。

 逃げなきゃ!

 でも、怖くて足が動かない。

「誰かたすけて!!!」

 !女の子が助けを呼んでいる。夕暮れ時の帰り道にわたしのほかに人の姿は見えない。

 どうする!どうする!どうする!

「うわーーーー!!!」

 ろくな考えもなしに影にめがけて突っ込む。

 一度走りだした足はもう止まらない。

 影がわたしに気づく。

 あ、これわたし死んだな。

 短い人生だったな。

「やっぱりあなたは勇者よ!」

 その言葉とともにわたしと影の間に人影が上から出現した。

 勢いあまってその人にぶつかる。

「おっと、大丈夫?」

 この声、もしかして!

「神崎さん⁉」

 わたしの前に現れたのはまさかの神崎さんだった。

「どうしてここに?ってそれよりも逃げて!」

 だけど神崎さんは不敵に笑う。

「あなたこそこの場から離れるといい。ここは私に任せろ!」

 そういって神崎さんは影の方を向く。

「よくも好き放題してくれたな。貴様はこの私、神崎燈火、またの名を獄炎の支配者が消し炭にしてやろう!」

 神崎さんが駆け出す。

 だめだ!あれは中二病の設定なんかとはわけがちがう。

 このままじゃ神崎さんが死んじゃ・・・

 しかしそこで思いもよらないことが起きた。

「ヘルフレア!」

 赤黒の炎が神崎さんの掲げた手から飛び出し、影へと襲い掛かった。

 な、なにあれ⁉

 影はとっさに身を引く。

 だけど神崎さんは足元から炎を噴出する。

「アクセルドライブ!」

 神崎さんが影の上に飛んだ。

「これでおしまいよ!地獄の炎よ、我が右手に。浄化の炎よ、我が左手に。互いに合わさりて我が敵を払い、我が味方を救う力となれ!聖獄炎ホーリーインフェルノ!」

 白、赤、黒、紫、様々な色の炎が渦を描くようにしながら影へと襲い掛かる。

 家よりも高い炎の柱なのに不思議と熱くない。それどころか体の調子が良くなった。

 炎が晴れる。

 そこには女の子を抱えた神崎さんと、体が崩れ始めている影がいた。

「あの!神崎さん!その子は」

「大丈夫。気絶しているだけよ。そのうち目を覚ますわ」

 そっか。ならよかった。

「ところで、さっきのは、いったい・・・」

「あれは漆黒の闇騎士団よ」

 漆黒の闇騎士団?たしか神崎さんが遅刻した理由として言っていたやつだよね。

 って、あれってそういう設定じゃなかったの⁉

「設定?何を言っているの?漆黒の闇騎士団は実際に存在している組織よ。奴らはこの世のあちこちに現れる影の形をした存在で人々をさらったりしているの」

 信じられない。

 でも、実際にこの目で影が人をさらうのを見たもんな。信じるしかないのか。

「それにしてもやっぱりあなたは勇者ね。あの場で恐怖におびえながらも誰かを助けるために動いた。立派な勇者ね」

「だから違うって!それより、あれだけ炎を出して目立ったりしないの?」

「ああ、それなら大丈夫よ。というかあれが見えた時点であなたは特別な存在なのよ」

 はい?どういうこと?

「だってあれ、わたしと同じような人にしか見えないんだもの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る