どうぶつ病院
私はコナちゃん。可愛いコナちゃん。
ママが昨日の夜、キャリーケースを2つとも物置から取り出してきたの。
お出かけかしら?
でも今朝になるまで放り出してあるわ。
今朝はパパもお
いつも、朝早くお仕事に行っちゃうのに、どうしたのかしら?
「ねえ、ガンちゃん、今日はどうしてママとパパがお家に居るのかしら?」
「知らなーい。あー、ママちゃん、ソコソコ」
ガンちゃんはママのお膝の上でシッポの付け根を掻いてもらって気持ちよさそうにグルグル言ってるわ。
パパはお部屋でコンピューターに向かって考え込んでいるみたい。きっと「テレワーク」っていうやつをしているのね。邪魔しちゃいけないから、コナちゃんは話しかけたりしないで、そっとモニターを覗き込んだの。
「コナちゃん、邪魔しちゃダメだよ」
パパは優しく言ってコナちゃんを抱き上げたわ。そのまま床に降ろされるのかと思っていたら、キャリーケースまで運ばれたの。もう一方にはガンちゃんが入っていたわ。
「コナちゃん! 僕たちどうなるんだろう?」
「お出かけみたいね」
「僕たち、捨てられちゃうのかな? ママー! 助けてぇ!」
ガンちゃんは大声でママを呼んでいたけど、きっとママがガンちゃんをキャリーケースに入れたんだと思うのよね。
鳴き叫ぶガンちゃんを心配したショゴスがソファーの下からちょっとお顔を出したの。
「ショゴス、コナちゃんたちはお出かけして来るから、しっかりお留守番していてね」
「ワカッタ」
コナちゃん達はパパの運転する自動車に乗せられてお出かけしたの。若葉台のお山をくだって、ちょっと行ったところに「わかば動物病院」があるの。
「予約しているコナちゃんとガンちゃんです」
ママが小さなカードを受付のお姉さんに差し出してから待合室のベンチに座ったの。
「よぉ、健康診断かい?」
近くのキャリーケースからハチワレ猫が声をかけてきたわ。
「そうみたい。私はコナちゃん、よろしくね」
「俺は佐助だ。そっちの兄ちゃんは自己紹介どころじゃ無さそうだな」
コナちゃんのお隣りにあるキャリーケースからは振動が伝わってきているわ。ガンちゃんはきっと小さく丸くなって震えているのね。
「ガンちゃんよ。いつもはちゃんと邪神とかの調査をしているのよ」
「へぇ、そうは見えないけどね。ま、良いや。コナちゃん、最近は『抄訳・妖蛆の秘密』のせいで時々邪神召喚を試すニンゲンがいるけど、俺の近所じゃそれ以外は至って平和だ」
「コナちゃんのおうちにはオバケがたまに来るけどそれだけよ」
「コナちゃん、オバケ退治ができるのかい?」
「コナちゃんは何だって出来るのよ」
コナちゃんがちょっと自慢してみたら佐助は楽しそうに笑っていたわ。
「佐助くーん」
「あーれー!」
佐助は佐助ママに連れられて診察室に入っていったわ。コナちゃん、連れて行かれる時の佐助の悲鳴は聞き逃さなかったわよ。
「小夏ちゃーん、ガンダルフくーん」
反対側の診察室から呼ばれたわ。
「はーい」
コナちゃんママがお返事して、みんなで診察室に入ったの。そこで健康診断とお注射をして貰って、また待合室に出てきたらピットブルが座っていたの。
「私はコナちゃん」
「俺は諭吉くんだよ、よろしくね、コナちゃん」
「僕はガンちゃん、よろしくね」
とってもとっても小さな声でガンちゃんがご挨拶したら諭吉くんはパァッと笑顔になったの。
「キミがガンちゃんか! おはぎちゃんから聞いているよ。5丁目のよく育つ茂木さんちの赤ちゃんの話は聞いた? もうすっかりインスマス面になったよ。次は2丁目の佐々木さんちじゃないかって噂してるんだ」
「ありがとう、報告しておくよ」
それじゃあまたね! 元気でね! また会おうね! と尻尾を振る諭吉くんが飼い主さんに抱えられるようにして診察室へ入って行き、コナちゃんのママが受付のお姉さんにお金を払う。
コナちゃんたちはまた自動車でお家に帰ってきたわ。
「ただいま、ショゴス。お留守番ありがとう」
「おかえり、コナちゃん、ガンちゃん」
ママとパパはコナちゃんとガンちゃんをお家に入れるとまたお外に行っちゃったわ。
「コナちゃん、ショゴス、僕はとっても疲れたからお昼寝するよ」
ガンちゃんはまだちょっとふらつく足取りで2階へ上がって行ったわ。
パパがお外でママとお話しているわ。
「不思議だねぇ」
「誰の車が擦れたんだろうねぇ」
駐車場の出入り口に車が擦れた跡があるみたい。
「ねえショゴス、コナちゃんたちもお昼寝しましょうか」
「ウン、オ2階ワ、オヒサマガ気持チイイヨ」
おやすみ、ショゴス。
おやすみ、パパママ。
また後でね。
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