抄訳:妖蛆の秘密 1
今日もお外は暑そうね。熱中症に気をつけてね。点けっぱなしのテレビでさっきお天気お姉さんが爽やかな笑顔でそう言ってたわ。
コナちゃんはママのお膝でお耳の後ろをカリカリしてもらってるところよ。でも、ママったらなんだかウツラウツラとしているみたい。ホラ、メールの着信音でびっくりして起きたわ。
「なになに? えーと、町内会のお知らせとアマゾンの配達通知か。あら、コナちゃん、2丁目の坂道に変質者が出たんですって、やーねぇ。コナちゃんはお外に出たりしたらダメよ。危ない危ないですからね」
どうしてママったらコナちゃんのお耳をくすぐりながらお話しするのかしら。くすぐったいわ。
コナちゃんがお膝から降りたらママったら悲しそうなお顔をするの。でもすぐ気を取り直して玄関まで行って薄い荷物を持って帰ってきたわ。ママはその袋みたいな荷物から小さなご本を取り出したの。
「あら、コナちゃんもこのご本に興味があるの?」
表紙には
抄訳 妖蛆の秘密
って書いてあったわ。変なタイトルねぇ。
「今ねぇ一部に流行ってるのよ」
ママって時々変わったものを好むのよね。この前作ってくれた「蹴りぐるみ(猫キック用縫いぐるみ)」はボールに触手とお目々がいっぱいついててショゴスかと思ったわ。
「早速読んじゃおうかな。コナちゃんも読む?」
ママがソファーに転がったからコナちゃんはママの肩を枕にしたの。
「コナちゃんはいい匂いだねえ」
ママったら翻訳者の謝辞を読みながら呟いて、すぐ寝ちゃったわ。せっかく買ったご本は床に落としちゃった。
「ママったらこのご本を読んでるの?」
ガンちゃんがコーヒーテーブルの下から出てきたわ。
「ガンちゃん、このご本知ってるの? 面白いの?」
ガンちゃんはご本を斜め読みしてからコナちゃんを見たわ。
「元々は16世紀にドイツで出版されたご本だよ。ルドウィグ・プリンっていう魔術師が書いたんだ。お化けを呼び寄せたり、言うことを聞かせたりする方法が載っていたからキリスト教の教会が大幅な検閲をしたんだ。これはその後の版をさらに要約したご本だね」
「ふーん、じゃあ危なくないのね」
コナちゃんも読んでみたの。なんだか図鑑みたいだったわ。ガンちゃんは何か考え込んでいるみたいだった。
「ねえ、コナちゃん、ママはこのご本を新品で買ったの?」
「うん。いつもの薄いのに入って届いたわ」
「中古品に注釈を加えるニンゲンが出ないといいけど。」
ガンちゃんはちょっと心配そうにしていたの。
「どうして?」
「この翻訳者が注記で『星から召喚した召使い』について詳しく書きすぎているんだ。あとはちょっとの魔力と呪文で召喚できる」
「ママが流行ってるって言ってたわ。そこまで調べるニンゲンいるかしら?」
「いないといいけど」
「ガンちゃん心配性ねえ。ニンゲンはそこまで暇じゃないわよ」
「うん、そうだね。でもママはこんなもの読んじゃだめ。夜中に一人でトイレに行けなくなっちゃうからね」
ガンちゃんはそう言うと「妖蛆の秘密」を開いて上からオシッコをしちゃったわ。
「ガンちゃん、ママに怒られちゃうわよ」
「大丈夫だよ。まだ起きないから」
ガンちゃんの言った通り、ママはお昼近くまで眠っていたの。でも起きたら「あ゛ー」って言ってたわ。
「コナちゃん! ガンちゃん!」
コナちゃんはガンちゃんと一緒にママを見上げたの。
「ご本にオシッコしたりしたら駄目でしょ、もう捨てるしかないけど。変なところでオシッコしないのよ」
ママ、コナちゃんのお顔を両手で挟んでそう言うとヨレヨレになった「抄訳 妖蛆の秘密」を袋に入れてからゴミ箱に入れたの。ねぇ、ママ、もしかしてコナちゃんがオシッコしたと思ってないわよね?
ガンちゃんったら知らん顔して澄まして座ってるわ。癪に障ったからガンちゃんを叩いちゃったわ。
「コナちゃんはこわいなぁ」
「ガンちゃんがオシッコしたのにコナちゃんだと思われたじゃない」
「ガンちゃん良い子だからね」
もう一回叩いちゃおうかしら?
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