第6話

「みはるさん今日はなんかご機嫌じゃないですか?」

いつもヘアメイクをしてくれる美容師さんがニヤニヤしながらこちらを見てくる。


分かっている癖にわざわざ聞いてくるのがこの子の嫌いのところよね。

腕がいいから担当を変える気にもならないのがタチが悪い。


「そうよ、今日はお客さんと同伴で美味しいものを食べにいくの。だから楽しみで表情に出ていたのかもしれないわね。」


そっけなくそう返すも、彼女は逃してくれそうもないかな、と思っていると案の定の追撃がくる。


「それっていつも愚痴っているあの人との同伴ですよね!?今月もやっとお店に来てくれるんですねー。そっかー、今日は乙女モードのみはるさんで出勤するんですね。」


「あの人ってのが誰のことを指してるのかわからないけど、お客さんの前で乙女モードなんてならないわよ」


そう返すも内心でこの子に愚痴をこぼしたのは本当に失敗したと心から反省をする。

メンタルが弱っていたと言えお客さんへの気持ちなんて間違っても外でしていい話じゃないわ。




女二人で話をしているそこにアシスタントの男の子が割り込んできた。


「みはるさん、同伴じゃなくてデートするんすか!?僕みはるさん好きなんでショックです・・・」


「バカね、あんたが想うのは勝手だけどみはるさんが相手する訳ないでしょ。デートの相手はエリートサラリーマンよ?」


「でも、俺だってチャンスがゼロではないと思いたいです!サラリーマンさんなら僕にだって、」


「だったらみはるさんに会うためだけに毎月他県から遊びに来て、20万近くのお会計ができるくらい稼ぎな。みはるさんが今からデートする人はそれをしてるのよ。」


「20万すか・・・流石に月給以上を全て捧げるのは僕にできないです。」


「でしょ。分かったなら向こうの片付けに戻りな」


「分かりました・・・みはるさんお仕事頑張ってください。」




漫才みたいな掛け合いをしながら、アシスタントくんを追い払ってくれた。

だたその顔がまさにドヤ顔というのに相応しい表情であったことが癪に障る。


「何かしらその顔は。そもそもあなたが面白半分で話を広げなければこうはなってないのだけど。」


「あはは、すみませんね。でも彼もみはるさんのことが本気みたいだから、現実見せてあげるのも先輩の役目じゃないですか?」


そう言って、鏡越しにお茶目にウインクをしてきた。


やっぱりこの子には絶対にのぞむさんのことを言うのは今後辞めておこうと固く心に誓う。

すでに今までに取り返しのつかないことを言ってしまっている気がするが、傷口を広げない様ににしないと。

そんなことを考えていると、最後に特大の爆弾を投下してきた。


「いやーでもすごいですよね。歌舞伎町でも有名な人気キャバ嬢が、営業メールと勘違いして努力に対しての評価として来店するからってわざわざ連絡の頻度減らしてまで気を引こうとしてる男がいるなんて。他のお客さんが知ったら大変ですね。」


「ちょっと!!もうヘアメは終わりでしょ。時間だから行かないと。」


今の私のメンタルにはクリティカルヒットする内容でこれ以上はキャバ嬢のみはるを保てる自信がないのでそそくさと美容室を後にする。


「はーい。本日もありがとうございました。私はみはるさんのこと応援してますからね。ガンバッテクダサイネ」


そんなお見送りの声から少しでも早く逃げ出したくて歌舞伎町を進んでいく。





数分も歩くと約束のお店が見えてきて、その前にのぞむさんが待っているを見つけた。

今日も元気そうでよかった、なんて声を掛けようかなと思っているとのぞむさんと目が合った。


「みはるさんおはよ。今日は同伴ありがとうね。久しぶりに会えて嬉しいよ。今日も相変わらず可愛いね」


そうやって声を掛けてもらうと、“みはる”でない本当の私がつい顔を覗かせてしまいそうになる。

でも、今は“みはる”としてちゃんとしないと。そう心に言い聞かせて私も挨拶を返す。


「のぞむさんもおはよ!こちらこそわざわざ来てくれて嬉しい!たくさんお話ししようね!さ、ご飯食べに行こ。」


そう言ってのぞむさんの手を引いて予約してくれたお店に向かって移動を始める。


大切な彼との切なくて長くて短い夜は今からなんだから。


今日はどんなことをお話ししようかな。

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