第7話
「いつも思うけど、みはるさんの選ぶお店は本当にセンスいいよね」
「そうかな?のぞむさんと行きたいなって探してるだけだから、きっとセンスは関係ないよ」
のぞむさんに褒められ少し嬉しくなるも、何食わぬ顔で返事を返していく。
本当は違うの。
高いお店だときっと気を使わせちゃう。
だから安くて美味しいお店をいろんな人に教えてもらっているんだ。
一度、「のぞむさんと一緒ならサイゼリヤだって構わないんだよ?」と言ったことがある。
そしたらなんとこの男、あろうことか「そうだよね!ご飯でお金使うならお店で使った方がいいもんね。高いご飯でなくていいなんて、みはるちゃんはいい子だね」
なんて笑いながら返事をしてきた。
正直なところわかっていた。
この人は臆病だ。自分もそして相手も傷つかないように行動する。
だから私が想いを感じさせる言動をしてもキチンと夜の世界で遊ぶことを意識した立ち振舞いをしてくれる。
他のお客さんであればとんでもなく感謝したと思う。
でもこの人には勘違いをしてほしい。
そんなことをずっと考えている。
「みはるさん?お茶きたよ!」
そう声を掛けられて考えすぎていたことに気付く。
慌ててお茶を受け取りお礼を伝える。
「ありがと。もうすっかりのぞむさんに私の飲む順番覚えられちゃったね。」
そう笑いながら返すとのぞむさんが大真面目な顔をして
「そりゃみはるさんと何回もご飯に行けば覚えるよ。ウーロン茶、ジャスミン茶、最後があったかいお茶だもんね」
何気なく言ってくれるが、他のお客さんでここまでちゃんと思えてくれてる人は実はいない。
みんな高くて人気のあるところに私を連れ出すことしか考えていない。
だからこそ、この人との時間を何よりも大事に過ごしたいと思える。
「あーお腹いっぱいになったね。いつもご馳走してくれてありがとうね。」
「こちらこそありがとう。みはるさんと食べるの楽しいし気にしないでね。」
お店に向かいながら、ご飯のお礼を伝え、感想を言い合う。
後少ししたらのぞむさんに独り占めしてもらえる時間ももう終わる。
お客さんからの連絡で他にも何人かのお客さんが来るから、営業時間のうち半分くらいしかのぞむさんとは居れないかな。
寂しいけど仕方ない。
手を引いて歩くのもお店が近くなってからはできないので、ただ隣に立っているだけ。
こうして歩いてると、もうお店が見えてきた。
黒服さんに声を掛けられる前にこちらから声をかける。
「おはようございます!お客様のご案内お願いします!」
「おはようございます。いつもご来店ありがとうございます。お席にご案内しますね。」
「ありがとうございます。 じゃあみはるさん先にお店で待ってるね。」
そう私に声をかけて、のぞむさんはお店に入っていくのをお見送りする。
その後こっそりと別の黒服さんに声をかける。
「いつものお願いで悪いんだけど、席お願いね。」
申し訳ない気持ちを込めてお願いをすると、黒服さんは気持ちよく返事をしてくれた。
「大丈夫ですよ!マネージャーにもみはるさんが今日は同伴されること伝えて、いつもの角席を開けてますから。安心して着替えてきてくださいね。」
「はーい。じゃあしばらくお願いね。」
そう返事をして更衣室に向かう。
このお店のみんなの温かさや優しさに感謝しながら、今日も頑張ろう。
そう気持ちを入れてお店に向かう。
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