13話 懸る
一晩考えに明け暮れた結果、シーニャの結論は決まった。
(もう、ラミュマさんが知っていたのなら素直に言おう。)
シーニャはそう思い、講義の始まる前にラミュマの部屋にやってきた。
彼女には嘘を吐きたくない。シーニャなりの決意であった。
知らないのならひた隠しにするつもりで居たが、もしも勘付いてしまっているのなら隠すのもどうなのか、と決めた。
自分の本性を知ってしまって、ラミュマはどう思うだろうか。もう、友人ではなくなってしまうかもしれない。
だが、それでも構わないと思った。
きちんと向き合った結果失ったのなら、それはラミュマさんにとっても良い選択であるはずなのだとそう思った。
アーグリードとカルラシードの部屋はそれぞれ王族であるが分けられている。なんとも豪勢なものだ。
レイの部屋にはよく足を踏み入れているが、ラミュマの部屋に向かうのははじめてだ。思わず緊張が走る。
コンコン、とノックした。ラミュマの使用人が出迎える。
殆どの生徒が従者を連れており、王族であるラミュマは3人を連れていた。出迎えてくれた使用人は、シーニャにも面識があった。
「あの、授業の前にラミュマさんと会って話したいんです。良いでしょうか?」
そう言うと、使用人はラミュマに確認を取る為に一度部屋に戻った後、再び出てきて許可を出した。
ラミュマの部屋に招かれる。
構造自体はレイの部屋とほぼ同じなのだが、そこかしこにインテリアを置いている。
レイはあまり部屋に頓着しないようでそのままであるという話を訊いていたので、恐らくこれらは全てラミュマの趣味なのだろう。
女の子が一度は夢見るようなファンシーな部屋は、ラミュマらしくないように思った。彼女はなんというか、凛としている印象があったからだ。
通された部屋の先にラミュマが居た。もう朝の支度は済んでいるようだ。
「シーニャ、どうしましたの?」
くりくりとした金の瞳を真っ直ぐにぶつけてシーニャにそう尋ねてくる。
シーニャはそれにたじろぎそうになりながらも、訊く。
「ラミュマさん。あの王都に行った日。眠っている間、もしかして意識がありましたか?」
逃げるように回りくどく聞いても答えは変わらないだろう。
そのままに、訊きたい内容をしっかりと尋ねる。
ラミュマが口を開いた。
「ええ、実は少しだけ。」
「っ……!!」
ラミュマは、自分の姿を見ていたのだ。
その言葉に、思わず苦虫を噛み潰したような渋い顔になる。
しかしながら続く言葉は、シーニャの思いも依らないようなものであった。
「わたくしは、常に『完璧』で在り続けました。」
「……はい?」
「私には二人のお兄様が居ます。二人とも、並外れた才能の持ち主で、私など到底敵わないと分かっています。
女なのもあり、王になることは決してないでしょう。
ですが努力を重ね、常に思い描く限りの完璧で在るようにしていました。
この学院に来てからもそうです。あのレィナータさんすらも私は入学試験で勝利するほどの満点の首席入学。
今まで出た授業の予習・復習を欠かした事もありません。
何か代表をする事があれば積極的に前に出ます。
次の定期試験でも満点を取るつもりで居ます。」
ラミュマの言うのは紛れもなく事実だ。
彼女が常に努力を欠かさず、研鑽に挑む姿をシーニャは間近でよく見ていた。
だが、何故今こんな事を話し始めるのか理解できなかった。
「あ、あの?確かに、ラミュマさんが頑張っているのはそうなんですけど、今は関係なくないですか……?」
「いいえ。とても関係ありますわ。
シーニャ。何故私がこれほどに完璧で在り続けるのだと思いますか?」
「王族としての責務……とか?」
「違います。」
「将来は国を出て旅立つ?」
「んー……。近くなくとも遠からず……。
シーニャ、周りを見てみなさいな。」
そう促され、シーニャは部屋の中を見渡す。
きらきらと麗しい装飾の成された部屋だ。そこかしこに花が飾られ、壁には絵画が飾られ、ランタンまでも備え付けでなく部屋に合わせて持ち込んでいる。
「綺麗な部屋……ですけど。」
「そうでしょうそうでしょう。
完璧な女の子の部屋でしょう!」
シーニャの頭は今もハテナで埋まっていた。
ラミュマは続けて、言葉を紡ぐ。
「私は幼少の頃に、『飴粒の国の物語』という童話を読みました。
その本は、何もかも完璧に過ごしていたお姫様の元へ王子様が現れ、お菓子の国の中で許されぬ恋に落ちてしまうという物語なのです!」
熱っぽく語るラミュマに、シーニャは聞く。
「あの、それがいったい……。」
「私はですね。いつ何時王子様が現れても良いように、自分を完璧で在り続けるように保っているのです!
これが夢見がちだと笑われても構いません。それこそが私の原動力ですから!」
「笑いませんよ。とても素敵だと思います。」
「でしょう!」
ふふん、と鼻を鳴らすラミュマ。
そして続けて話し始めた。
「だから、見つけたのです。私の王子様を。」
「……はい?」
「私達の危機に颯爽と現れたあのお方!
翠の瞳、逆立ったエメラルドの髪!黒いマントに身を包んだ貴公子様!
きっと彼が、彼こそが私の王子様なのです!」
それは、想像だにしていなかった答えが返って来た。
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