12話 シーニャの悩み

 落ち込むシーニャに、レイが慰めるように声をかける。


「そんなにも強さがバレるの嫌なのかい?」


 その言葉の真意は、ラミュマであれば、戦うところを見られる分には嫌うようには思わなかったからだ。確かにシーニャの本性・目的の全てを曝け出してしまったならばともかく、ただその実力を見せる分には問題ないようにレイは思っていた。それと同時に、その溢れんばかりの才能を隠したままにしておくのはもったいないのでは、とも感じていたのだ。


「嫌です。

 ラミュマさんは、今の私をかけがえのない友人だと思ってくれているんです。それを……壊したくありません。」


 ただ、自らの力を隠す事はシーニャなりの誠意でもあった。

 彼女は自分をどうしようもない異物であると認識しているし、本性を知り、受け入れたからこそレイはそれを否定する事はできないのだ。他の皆も同じであるようで、それがシーニャの思う付き合い方であるのなら、強く否定する事は出来ない。


「そういうのなら、僕も無理強いはしないよ。

 けど、もし見られてたのならそれはどうにかするように考えておくんだよ。誤魔化すにしても、ちゃんとカミングアウトするにしても。

 それとも、僕達が一緒に考えようか?」


「いいえ、自分でやりたいです。ご迷惑をかける事が無いのであれば、出来る限りラミュマさんについては自分で解決をしたいので……はあ。どうしましょう。」


 そうしてシーニャはラミュマについての対応に頭を随分と捻っていた。

 あのようにどうしようもなく常人とはかけ離れた倫理観を持つシーニャが、年相応の少女のように友人の事できちんと自分なりに答えを出そうとしている。


 その様子を見たアルマスは言った。


「……ま、今日は忙しそうだ。日を改めよう。」


「わざわざ来て貰ったのにすみません。」


「いや、いい。

 連日戦うよりも、多少の間が空いた方が俺も楽だしな。」


 こうしてシーニャは思春期の少女らしく、はじめて友人との対話に苦心する。

 持ち前の器用さでなんでもこなしてしまい、表面をなぞるだけで違和感を抱かれず馴染む事が出来てしまうのに、ただ一人の相手にあくせくと焦っているのだ。確かにシーニャにとってある意味どんな敵と戦うよりも最大の危機であるが、レイはそんな他愛のない行いがなんとも嬉しかった。


 そもそも、今日の授業で極閃魔法の話題になったというのにラミュマはシーニャに対し目線を向ける事は無かった。本当にシーニャの姿を見ていたのなら、少しは気になりはしないだろうか?ましてや、それをきっかけに甲斐甲斐しく世話を焼いているのなら。

 果たしてラミュマはシーニャに対して今どう思っているのか。それはこの場では分かりかねる事だった。

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