11話 相談

 1


 授業終わりの放課後、ほどなくして訓練が終わったレイは中庭で待ちぼうけるアルマスに出くわした。


「あれ、シーニャは?彼女と手合わせするって、わざわざクラブにも顔出さなかったのに。」


 学院騎士団と大層な名前がついているが、その実学院の警備を一部担当し、そして王宮騎士団に協力を求められる時を除けば普段はクラブ活動の一つに過ぎない。授業に加えて剣術を学ぶ鍛錬を進めていくのだ。何か大がかりな内容がある際には事前に通告され参加するよう義務付けられるが、皆貴族として立場のある人間ばかりなために毎日参加は難しく、普段は休む事に特に何か問われたりもしない。これは、あのロウェオンですら休む事もある程にだ。

 ただアルマスは、昨晩にシーニャに約束を取り付けられていた為に今日の訓練を休んでいた。てっきり死闘を繰り広げているものとばかり思っていたが、そのアルマスがここに居るとはどういう事なのか。


「いや、ここに来てシーニャを待っていたんだがな。来ないんだ。」


「なんだって!?」


 アルマスが何か不備があった結果遅れただとかでなく、シーニャが来ないのだという。これは異常だ。腕の一本や二本もがれても彼女はやってくるぞ。

 レイは思わず、改めて確かめる。


「待ち合わせ場所は合っているかい?時間は?」


「ああ、中庭でメリアスさん達の元へ向かう予定だった。

 時間だって、今日は学校終わりにと言っていたのは間違いないぞ。」


「だよね。いや、僕も昨日それには一緒に居たから知ってるけども。

 いやあ信じられなくてね……。」


 そうアルマスとレイが話していると、やっとシーニャがやってきた。


「お待たせしました……。」


「おっ、噂をしていると来たよ。シーニャ、随分遅かったじゃないか、どうしたんだ……。」


 やってきたシーニャはバチバチのメイクをし、いつもの黒髪ストレートはツインテールになっており、やたらと疲れたような顔をしていた。


「「なんで!?」」



 2


 結局アルマスとシーニャを、レイの部屋に二日続けて招く事になった。

 周囲に見知らぬ人のいないこの状況になってから、アルマスは茶の準備をするサリーを横目にシーニャに話しかける。


「お前、レイと居る時は素でなのか目見開きすぎてツインテール怖いぞ。」


「そうです?」


「自覚無いのか。」


 元々美人寄りの顔立ちなシーニャであるが、普段は優し気な笑みの籠った柔らかな目つきをしている。が、自分の本性を理解しているレイの前では常に目を見開くようにしてほぼ常に真顔で居る。そのせいで、ツインテールが絶望的なまでに似合わない。


 サリーが紅茶を淹れる中、シーニャにレイは切り込む。


「あのー、どうしたんだいそれ?」


「なんだか今日ずっと、ラミュマさんが、何かと私に世話をかけてくれるんです。」



『シーニャ、先程の講義で余所見していたでしょう。簡潔にまとめておきましたから目を通して復習なさい。』


『シーニャ、口が汚れていますわよ。』


『シーニャ、女の子なのにお化粧の一つもしないなんて駄目ですわ!今から私が教えて差し上げますから私の部屋に来る時間ありますか?ありますわよね!』


「……という風に……。」


「思ったよりも構われてる。」

「母親か?」


 その様子を隣で聞いていたサリーが、シーニャに聞いた。


「ねえシーニャさん。そういえばちゃんと聞いてなかったけれど、あれからラミュマ様にはなんて言ったの?彼女からすれば、起きたら急に郊外の屋敷から学院に戻っているのは不自然じゃないかしら。」


「ああ、それは完璧に誤魔化しましたよ。」

「『ラミュマさんがワインで酔ってしまったので私の部屋に連れ帰り介抱していました』って。この国では18からですが、うっかり宴席で口にしてしまったという事であれば不自然じゃないでしょう。」


 そう話すシーニャに対し、レイが思いついたように言った。


「ねえ、思ったんだけどさ。ラミュマがシーニャの戦っている様子を、おぼろげながらにでも覚えていただとかは無いかな。」


 レイの言葉に、シーニャの顔がさっと青くなる。

 これほど人間とは分かりやすく顔色が変わるのかと他人事のように驚いた。

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