6章 懸る
1話 顔合わせ
1
「これからの事を少し確認しておこうか。僕の部屋に寄ってくれるかい?」
アルマスを僕の部屋へと呼んだ。
これから国家反逆罪に挑むというのであれば、アルマスの協力も不可欠だと思ったからだ。だが、しかし。
「……部屋、誰か居るよ。サリー、カギ閉めたよね?」
「ええ、その筈ですが……。」
不審に思い、メリアスが前に出て陣形を組む。
僕とアルマスは消耗している為に、禄に戦える状態じゃない。
「学院に泥棒に入るとは馬鹿げた奴もいるものだな。」
ハーヴァマール王立学院は、学校じみた施設ではあるが貴族を擁する施設なだけあって守りが頑丈だ。さらに、講師陣も戦争の第一線に出たとしても活躍できるような実力者ばかりが揃っている。もっと言えば生徒ですらも相応の実力者揃いである。金品狙いに押し入るには明らかに割に合っていないのが実情だ。
「この先ですね。執務室のドアを私が蹴り開けます。レイ様とアルマスさんは構えていて下さい。」
サリーがごくりと生唾を飲み込むと同時に、メリアスが執務室のドアを蹴り開けて一気に飛び込んだ。すると、そこに居たのは、
「あ、やっと来ましたね。待ってたんですよ。」
シーニャ=クルスであった。
2
「シ、シーニャ!?何故こんなところに!?」
驚いたのはアルマスだ。彼女は品行方正な女学生として通っている。僕の部屋に居る理由までが想像できなかったのだろう。
一方のシーニャはアルマスを一目見て、おおよその流れを掴んだようで、今ならば見られても問題ないのだな、と判断した。
「はあ、シーニャ。カギは閉まっていたろ?」
「窓際、建付けが悪くなって少し隙間風が入る所がありますよ。そこから風魔法を起こして、遠隔構築式で鍵を開けました。」
「君って奴は……。」
普通、放出魔法を使う時には構築式の描かれた魔法陣を空中や地面に描く必要がある。対し、シーニャはそれを必要とせずに発動させ、大気を伝って命令を出せるのだ。そんな凄い技術をこんな事に使うな。
「どこかに行くのなら言っててくださいよ。折角今日はレイさんとやり合えると思って意気込んで来たのに!」
「それは素直にすまなかった。
いや言うほどすまないか?勝手に入る方が謝るべきじゃないか?」
「むー。」
いつもとは様子の違うシーニャに、アルマスは動揺を隠せないようで、そのままに僕達に質問する。
「なあ、どういう事だ?」
「ああ、それは……。」
それから彼女の正体が『鎌鼬』であったこと、彼女の本性は生と死のやり取りこそを望み、魔物生息圏に突貫する為にこの学園にやってきた事も告げた。
「そ、そう、なのか……。俄かには信じられないが、それほどの風魔法を持っているのならば、確かに……。」
「てへ。」
長い舌で茶目っ気のあるようにペロと出しているが、先程の話を訊いてからなら素直に可愛いと認めるのは癪だろう。
「アルマスさんはどういう経緯で?」
「ああ、それは……。話していいかな、アルマス。」
「構わない。望んでいた訳ではないとはいえ、彼女の素性や隠し事を全て聞いてしまったのだから。」
そうしてシーニャにアルマスの内情と、その能力を話した。
それにはボクを憎く思っていた事なども含まれていたが、シーニャが特に関心を抱いたのは――。
「『秘剣』!強化魔法にも極閃魔法のようなものがあるのですね!
素晴らしいです。アルマスさん!今から私と仕合を!」
「勘弁してくれ。今レィナータと一戦交えて来たところなんだ。
ま、今日じゃなければいつでも相手をしてやるさ。」
「言いましたね。お願いしますよ!」
恐らくはアルマスは同じ臣下同士に親交を深める為に軽い気持ちで言ったのだろうが、シーニャは初めて見る『魔剣』の持ち主という事で鼻息を鳴らしながら迫っている。
明日にはアルマスは勿論シーニャ自身もボロ雑巾になるまで挑まれるだろうが、まあその、頑張ってくれ。
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